シンガポールは、華人・マレー人・インド人・その他が共に暮らす多人種社会であると同時に、人口の80%が団地に暮らす総団地化社会でもある。①総団地化社会を実現する過程で、マレー人をはじめとするイスラム系住民の総団地化がどのように実現され非イスラム系住民と共住経験を共有してきたのか。②総団地化社会という多人種共住環境の下で、イスラム系住民が様々なせめぎ合いに直面しながらどのように非イスラム系住民との共住を実現しているのか。本研究では、以上二点について細部にこだわって明らかにするために、現地資料の収集と現地調査を中心に研究を進めた。実際に対立が表面化していない社会について、具体的な事例をもとに、現状だけでなくそれが可能となるに至った歴史的過程を踏まえて、共住する仕組みを解明することを試みた。これによって、社会学研究・エスニシティ研究の発展に寄与するほか、共住をいかに実現するのかという現代社会における課題にこたえる一助とした。 以上二点のうち、①イスラム系住民の総団地化の過程については、現地資料の収集と整理・分析を中心に研究を進め、②共住の現況については、シンガポール団地での現地調査と調査結果の整理・分析をもとに研究を行った。今年度はシンガポールへ渡航することができたが、新型コロナの影響で団地住民に新たに近づくことができない中、ホーカーセンターという公共飲食空間に注目して現地調査を行った。 ①については、1960年代から1970年代にかけての総団地化の初期の過程が非常に重要であることが明らかになった。②については、ホーカーセンターのような社会空間が共住の実現においてきわめて重要な役割を果たしていることを具体的に明らかにすべく、118ヶ所あるホーカーセンターを全て訪問し、そこでの興味深い展開を細かく記録することで、研究成果の公表に備えた。
|