2022年度は,2021年度に行なったインタビュー調査,アンケート調査の分析結果について,学会報告や論文執筆を通して発信した。また,最終年度であることをふまえ,研究の総括を行ない,一般向けのブックレットを刊行した。 新型コロナの感染拡大の影響が続き,結果的に新たな調査は実施しなかったが,これまで行なってきた調査から,島根県の人口移動が進行していく過程を,家族実践という切り口から議論した。教育,就職,医療,交通,余暇等々,何かにつけ都会のほうが有利となる社会システムの中で,地方の家族はそれに適応していくことが求められる。そうしてかれらの日常的な家族実践が生起していくが,その家族実践を通して,結果的にかれらは地方の若年層人口の流出を促し,過疎・高齢化を進めてもいる。確かにI・Uターンなど,一部の家族が地方暮らしを積極的に選択したりもしているが,そうした選択は個々の家族が「勝手に選択した」として自己責任論が強調されがちになる。結局今も社会システムは若い世代を県外(都市)に送り出す家族実践を適応的・機能的とし,そのシステム内にいる家族にとってはそれをするのが当然となっている。この仕組みを変えない限り,地方の人口流出の流れは止まらない――そうしたことを明らかにしてきた。その仕組みをどう変えるかについて考えることが今後の研究課題である。そのためのヒントもまた地方という社会の周縁部にあると考え,次の研究プロジェクトを構想している。
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