研究課題/領域番号 |
19K02083
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
金菱 清 関西学院大学, 社会学部, 教授 (90405895)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 災害 / 死者 / 記録 / 手紙 |
研究実績の概要 |
本研究では、東日本大震災において様々な脆弱性に直面した。世界に比して大災害による死亡・行方不明者が多数に上るわが国において、喪失や悲嘆経験を理解し克服する方法や教訓は多岐にわたるが、心理学・宗教学・社会学・民俗学等の各分野に散らばり、総体的・実践的な説明体系や仕組みがない。「東日本大震災の被災者はどのように死を受け入れるのか」を主題に、即座に彼岸に送れない死者の存在(幽霊、夢、行方不明等)に対する調査をおこなった。 令和2年度は『3・11慟哭の記録』『悲愛』に続く東北学院大学震災の記録プロジェクト三部作である金菱清編『永訣-あの日のわたしへ手紙をつづる』(新曜社)を発刊できた。東日本大震災の出来事は過ぎ去った過去か、それともいまだ超えることができない今なのか。東日本大震災に直面した人たちが手記という形で筆を執った企画は、今回で3回目である。1回目は2012年『3.11慟哭の記録』、そして5年後の2016年には亡き人への手紙を綴った『悲愛』、そして今回3回目は、10年前の自分自らに記した過去への手紙である。10年前からの自分からすれば、突然未来から届けられた「タイムカプセル」である。 10年前の自分自らへの手紙は、この震災におけるそれぞれの10年という歳月との向き合い方を示している。それは決して単調なものでなく、ときには格闘し、ときには悶え、ときにはとどまって考えようとした痕跡である。また、災害の教訓とは何かをも伝えてくれている。つまり、多くの地域やかたりべ活動を通じて、災害を経験していない人に災害を伝えようとしている。そのことがいかに難しいのかがこの手紙ではわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、「東日本大震災の被災者はどのように死を受け入れるのか」を主題に、即座に彼岸に送ることができない死者の存在に対するフィールドワークを継続している。研究代表者が見出してきた生死の中間領域における「霊性 spirituality」の視角を活用し、喪失や悲嘆経験を克服する体系的手法を編み出し、同時に自己表出の困難な人びとの現実世界を開示する、社会学的な調査方法論の洗練化を模索してきた。 ただし、コロナ禍でフィールドワークが困難だったが、手紙の本(金菱清編『永訣-あの日のわたしへ手紙をつづる』新曜社)を発刊することができた。
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今後の研究の推進方策 |
既存の学問領域では非科学的として脇に置かれてきたのが本研究の扱う「生死のあわい」であり、綿密なフィールドワークにより初めて生死の中間領域に横たわる問題が明らかになる予定である。また、本研究ではこれらの問題群を新たな霊性の視角と“生きられる死者”論からさらに深く掘り下げるために、継続的なフィールドワークに加えて、被災地全域を報道してきた新聞、放送、被災自治体等の震災記録アーカイブを精査し、調査手法の洗練化と質的深化を試みることになっている。 ただ、コロナ禍の状況をみながら、引き続きフィールドワークを続けるとともに、研究課題について着実に履行できるように行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度はコロナ禍による悪条件(状況)が重なり、フィールドワークに大きな制約がかかった。当初の交通費や宿泊費などが使用できなかったために次年度に繰り越しとなった。今後コロナの感染状況が不確定な点がありながらも、未使用額は基礎資料の収集に充てるなど少しでもフィールドワークの不足を補う形で研究計画を遂行する予定である。
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