本研究においては、生涯にわたりケアが必要とされる知的障害者の第一ケアラーとしての役割を果たしてきた親からのどのように社会にケア役割を移行するのかということについて、知的障害当事者、家族、支援者という三者の視点からの考察を行なった。 その結果、親から社会へケアを移行するという形ではなく、親の担ってきたケア役割に社会的ケアを重ねるという形での移行を考えていくことが重要であることが明らかになった。また今年度は、本研究成果をもとに出版した書籍を元に、複数の研究会を実施し、家族や支援者との意見交換を行い、関係者にとって本研究結果の妥当性を検証する機会を得た。概ね本研究結果は、それぞれの立場にある関係者から自身の生活実感と照らし合わせて妥当であるというコメントを得た。 また、海外比較では、韓国の障害者家族へのインタビュー調査を実施した。日本と同じく家族によるケア規範が強い文化圏に属する韓国においては、日本と同様に親亡き後を憂う語りを得られた。現状の韓国の課題としては、家族ケアの負担軽減のためのレスパイト資源の充実と医療的ケアや行動障害など重度の障害に対応する暮らしの場の整備であり、これも日本と同じ状況にある。しかしながら、障害者施策の設計から実施までの展開プロセスが、日本と比較すると早い韓国においては、これらの生活問題が短期的展望の中で解決するという見通しが語られ、日本との違いを実感した。今後も継続的に韓国の障害者施策やそのもとでの障害者家族の生活実態を調査することで、社会資源と親のケア規範意識の関連性を明らかにしていきたいと考えている。
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