研究課題/領域番号 |
19K02093
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研究機関 | ノートルダム清心女子大学 |
研究代表者 |
濱西 栄司 ノートルダム清心女子大学, 文学部, 准教授 (30609607)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 社会運動 / 運動行為 / 集合行動 / ビッグデータ / WebGIS / 集合行為 / 政治行動 / モバイル空間統計 |
研究実績の概要 |
本研究の実施計画は(1)事例記述(2)因果的説明(3)民主社会の基盤についての考察、から成り立っている。 (1)令和2(2020)年度は昨年度の予算と合わせて、スマホビッグデータ(モバイル空間統計)を購入し、官邸前・国会前500m、東京等のメーデー開催大規模公園、各都市中心街のメッシュについて、2011年から現在に至る全時間データ(約70万件)を入手した。膨大なものになるため、それらの本格的記述・分析はまだこれからであるが、たとえば2015年の国会前抗議集会については、メディア等で指摘されている参加者数とほぼ同じ人数になることが確認できている。また、コペンハーゲンCOP15をめぐる抗議行動の記述を行い、とくに集団が個人に拡散し、また再集結するタイミングとプロセスを描き出した。さらに全国各地での緊急事態宣言下の人の外出行動を、ルールを超える動き(抗議)と捉え、各都市における人々の移動をビッグデータを用いて記述した。 (2)緊急事態宣言下の人々の外出行動を、約 100か所の人口動態から把握し、宣言の影響が各エリアで大きく異なり、地域ごとに傾向があることを明らかにしたうえで、その要因を動員論モデルから説明した――岡山市主催Society5.0研究会での招聘報告や山陽新聞・日経新聞等の掲載につながり、さらに日本学術振興会のWebsite「科研費による成果で新型コロナウィルス感染症対策への活用が期待される例」にも掲載された。また、コペンハーゲンCOP15における抗議行動の展開や集団から個人に拡散するプロセスを当局のコントロールや都市環境から説明し(濱西 2021a)、環境社会学の知見も活用できることも示唆した(濱西 2021b) (3)行動経済学の知見や応用実践(ナッジ)の検討を通して民主社会における抗議行動のありようについて考察を進めた(未発表)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)事例記述:まずWebGISとTimelineを用いた抗議行動の記述は、この2年で着実に進み、学術誌や書籍を通して成果発表もできている。つぎにビッグデータについては、過去3年の提供会社との関係性、及び昨年度予算残額の活用を通して、想定以上の量(60万件)を収集することができた(複数エリアについて10年間24時間のデータ)。今後、さまざまな抗議行動を把握することができる。ただ日本以外の国では同様のことは不可能であり(海外研究協力者や日本の提供会社へのヒアリングより)、利用可能な一部データからできることを検討する必要がある。また、感染病の広がりによって、多くの抗議活動が公的な空間でリアルに実施されることが減少したことは想定外であった。そこで、緊急事態宣言下における人の外出行動(しばしば抗議的な意味合いをもつ)をビッグデータで捉える研究を実施した。それが行政機関やマスコミから注目を集め、日本学術振興会のサイトで紹介されたことは予想外のことであった。 (2)因果的説明:集合行為論・資源動員論、行動経済学、環境社会学的抗議研究の理論的検討を進め、研究協力者とともにアクションを統一的に記述する方法論の整理(rally、march、piqueなどの区別、説明時の客観的要因/主観的要因の区別、物理的要因の位置づけ)を行ってきた。また都市空間と運動行為の関連についての検討も進め、運動研究の方法論とプロテストの行為論的分析も行ってきた(一部既発表)。 (3)民主社会の基盤の考察:これらの実証研究・理論的研究をふまえ、新たな運動行為論のベースとなりうる歴史的行為論や民主社会における労働運動・社会運動・政治行動のありようについての考察も進めた(一部既発表)。 コロナ禍による調査の遅れはあるが、ビッグデータの収集には予想以上の成果があり、総じて研究は順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
(1)事例記述:抗議行動の記述と分析をいよいよ本格的に進め、成果をまとめていく。2021年度もおそらく公的な場での抗議行動は大幅に減少すると予想されるので、①すでに実施済の過去の抗議行動のデータ収集と記述、②今年度入手した膨大な量のビッグデータの記述・分析を進める。同時に、事態収束時に大きな動きが現れるか状況を注視していく。またコロナ禍における外出行動の分析については、行政などへのアウトリーチにもとりくんでいく予定である。その際、ビッグデータ活用の倫理や社会的責任の問題について、常に考え発信していくことは、引き続き本研究の推進方策として非常に重要である。 (2)因果的説明:まずアーカイブ化された事例の比較を進め、共通点と差異を描き出したうえで、法則性とその要因について検討していく。組織戦略論(動員論)と社会生態学・政治地理学、環境社会学、行動経済学等から説明モデルを構築していく。並行して海外研究協力者と事例記述について意見交換を行う。 (3)民主社会の基盤の考察:説明モデルの構築を通して、抗議行動の要因について考察し、日本における抗議行動のありようについて検討する。抗議行動の展開に影響を与える各都市の条例や大規模な公園やパブリックな空間の配置のありようについて検討し、その改善についても検討する。また行動科学的な観点からあるべき抗議行動への誘導が正当化されるのかも含め、あるべき民主社会の基盤のために必要な方策を導き出す。
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次年度使用額が生じた理由 |
モバイル空間統計のアカデミックパックは定額であり、次年度に予算を残すことでもう一度購入することができる。パック外でのデータ購入は非常に高額になるため、予算のよりよい執行、および研究推進のための変更である。
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備考 |
濱西栄司、2020「ウィズ/アフターコロナ時代におけるビッグデータの社会的活用――モバイル空間統計を事例に」岡山市Society5.0社会実装研究会、2020年6月11日、岡山市役所
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