最終年度である2023年度は主として次の3点が研究実績としてあげられる。 1. 現地調査による、メキシコにおける移民・難民支援体制および当事者間の社会関係の分析:2020年以降に起きたベネズエラ人・ハイチ人移民・難民申請者の波はその規模を拡大して継続中である。これまでの移民の多くは中央アメリカ出身者(特にグアテ マラ・エルサルバドル・ホンジュラス)であったが、こうした人口圧に押されその存在は社会的なインパクトを失いつつある。その一方で、すでに10年以上にわたる移動・滞留経験を蓄積した中米出身者たちは、メキシコにおける就労・生活基盤を構築しはじめていることも調査によって明らかになった。また、ベネズエラ人・ハイチ人にそうした資源を共有するとともに、機会があれば彼ら彼女らと再び移動過程に入る準備があることも明らかとなった。 2.文献・資料調査による、中南米・メキシコにおける「移民の社会」概念の明確化:すでにメキシコにおいては、こうした移民・難民申請者の姿は日常の一部となりつつある。特に、中米出身者の就労が制度的に容易となったこともあり、かつてのような露骨な差別は表面的には減少しつつある。ただし、依然として偏見や周縁化は根強く残っているのも事実であり、そうした二面的な状況を文献(とくにメディア資料)を利用して明らかにすることができた。 3. 送り出し国における社会変容に関する考察:移民送り出し国においては、仕送りが社会や国家を支えている部分が大きい。また、社会的・文化的にもそうした「海外における親族」の存在がより日常化しつつある。金銭だけではなく、SNSなどを通じた社会的紐帯の存在により、現地がどのように変化しているのかについて、予備的な調査分析を行った。
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