研究課題/領域番号 |
19K02123
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
石田 淳 関西学院大学, 社会学部, 教授 (40411772)
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研究分担者 |
前田 豊 信州大学, 学術研究院人文科学系, 助教 (50637303)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ヴァルネラビリティ / ハザードマップ / リスク / 社会階層 |
研究実績の概要 |
本研究は、社会的位置によって規定される個人の「脆弱性(ヴァルネラビリティ)」を社会調査データより推定し、その情報を社会的ハザードマップの形で視覚的・直感的に示す一連の手法の開発を目的とする。 本年度は、引き続きヴァルネラビリティ・スコアの定式化と分析を中心に研究を進めた。ヴァルネラビリティ・スコアとは、社会的に埋め込まれた負のライフイベントから受ける潜在的なダメージの程度を、因果推論の手法を応用することで横断的データから社会的カテゴリーごとに測定する指数である。具体的には、負のライフイベントを受けていない場合の状態と仮想的に受けた場合の状態を比較し、平均的なダメージの効果を算出するものである。 全国調査である2015年SSM調査データを用いて、失業や配偶者の喪失という負のライフイベントに対する応答として、世帯収入と主観的幸福にかんしてどの程度のヴァルネラビリティが見られるかを分析し、ジェンダー、年齢、教育達成による違いを描き出した。この成果を研究ノートや編著論文(近刊)として公表した。 さらに、ヴァルネラビリティ・スコア分析の手法の精緻化を進め、ライフイベントのサブカテゴリーによって異なる効果を分解する手法を考案し、2015年SSM調査データを用いて、労働市場における周辺的地位への移行が自発的になされたか非自発的になされたかによって、主観的幸福感に与えるダメージの程度を分析した。この成果を英語論文としてまとめ、現在学術誌に投稿中である。 同時に、顕在化したヴァルネラビリティを捉える研究として、社会全体に大きなインパクトを与え、人びとの生き方を左右するイベントである戦争に注目し1955年SSM調査データの職歴データを用いて、徴兵が職歴に与えた影響の基礎的分析を開始した。この成果の一部は、編著論文として公表予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ヴァルネラビリティ・スコアの定式化と分析は引き続き順調に進んでいるが、COVID-19の影響もあって、とくに国際的な成果の発表が十分にできなかった。また、GISを用いたハザードマップ作成については、十分に技術的検討ができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、GISを用いたハザードマップ作成に重点を置くよりも、社会学におけるヴァルネラビリティ概念の精緻化と、ヴァルネラビリティ・スコアの応用を一層進めていく。SSM調査データだけではなく、様々なデータでの分析可能性を探る。さらに、より広く「社会的・環境的ハザードに対するヴァルネラビリティ」を捉えるという研究枠組みのもと、戦争など脆弱性が実際に露わになったイベントの歴史計量的分析や、地域住民のリスク認知の調査にも取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の世界的影響により、当初予定していた国内学会・国際学会参加のための旅費が不要となったため。また、研究計画の見直しにより、GISソフトウェアの年間契約を見送ったため。 次年度も引き続き、COVID-19の影響により旅費が使えない可能性が高い。これらの分を、研究計画を見直し対象範囲を広げたことによって新たに必要となるデータ分析や調査のための費用として適正に使用する。
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