本研究は、社会的位置によって規定される個人の「脆弱性(ヴァルネラビリティ)」を社会調査データより推定し、その情報を社会的ハザードマップの形で視覚的・直感的に示す一連の手法の開発を目的とする。 本年度は、これまでの研究成果をまとめ、研究成果を次なるプロジェクトに発展的に継承していくための研究活動に注力した。 まず、ヴァルネラビリティというテーマに留まらず、新たな計量社会学的手法の開発・応用に向けた検討を行う研究会を実施した。 つぎに、仮置き場設置についての合意形成プロセスに焦点を当てた科研費研究プロジェクト「事前復興事業における合意形成プロセスの解明」(基盤研究(C)(一般)22K01877)と合同で複数回研究会を実施し、本研究課題が追究したヴァルネラビリティ概念のさらなる応用可能性を追求した。このなかで、社会的位置によって規定される個々人の脆弱性とリスク認知との関連について議論を深め、さらなる調査研究に向けての示唆を得た。 さらに、ヴァルネラビリティ概念のよりミクロな動態を経験的に把握するための基礎的資料として、長野県長野市・松本市を対象とする社会調査を昨年度実施した。本調査データの分析により、たとえハザード(自然災害)のリスクを強く認識していたとしても、必ずしも備える行為が行われないという「リスク認知のパラドックス(risk perception paradox)」が確認された。さらに、デモグラフィックな属性や責任主体の捉え方といった個人属性・意識との関連も確認され、更なるヴァルネラビリティ概念の理論的拡張に向けた議論の方向性を得た。なお、以上の結果は第73回数理社会学会大会において報告された。
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