研究課題/領域番号 |
19K02124
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
石岡 丈昇 日本大学, 文理学部, 教授 (10515472)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | レジリエンス / 解釈労働 |
研究実績の概要 |
本年度は、昨年度同様に、これまでの調査で行なった分析をまとめて公表する作業をおこなった。具体的には、「解釈労働」という概念を用いて貧困所帯の実態を捉える論考を執筆した。また、フィールドノートを再構成する形で、現場感覚から離れないレベルで貧困所帯の根こぎの模様を描出した。これらは、雑誌『現代思想』(青土社)の連載論考である「タイミングの社会学」に掲載されており、学術的アウトプットであると同時に、ひろく社会一般へのアウトリーチの活動の一環にも該当するものである。 また、昨年度と同様に、貧困を考える際には、個人へのアプローチと同時に集合体へのそれが必要になってくることを研究の方法論としても検討する作業を継続した。貧困を生きる人びとは、その生活の単位のなかに、つねに余人を抱えており、それがレジリエンスとして作動していることが、改めて確認することができた。さらに、強制撤去と再居住は、そのターゲットとされた人びとの一日の時間を、ますます仕事と通勤に囲い込むことも分かった。再居住地へ「送られる」ことは、もっと働かなければならなくなることである。職場から遠くなることによって交通費が高くなり、その交通費を補填するためにも人びとはもっと働かなければならなくなる。またジプニーを用いた長時間通勤を繰り返すことで、疲弊していく。再居住地の生活とは、稼ぎ手の生命力が擦り減らされることを前提に成立していることが見てとれた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの調査内容を論文として公表することはできているためである。昨年度までは、コロナ禍ということもあり、最新のデータについては当初予定していた現地調査からではなく、現地の二次資料に頼らざるを得なかったが、今年は現地フィールドワークを実施することもでき、よりビビッドな研究内容が公表できたと考えるためである。成果公表の面においても、論文や学会報告(指定者としてのシンポジウム報告)などをおこなっており、成果の発信もできている。以上より、(2)概ね順調に進展している、という区分が妥当であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
現地調査をおこなうことができるようになったため、引き続き、調査を継続しつつ、最新のデータを補足していきたい。そうすることで、コロナ禍の困難を踏まえた貧困所帯の実態を捉える一次データを取得していきたい。また、理論的にも、引き続きレジリエンスや解釈労働、時間ー空間の圧縮、疲弊など概念をブラッシュアップさせるような考察を展開していくことで、事例研究と理論研究を接合するような方向性を打ち出したい。また、国際学会での発表や交流なども、ポストコロナの段階においては積極的におこなうことで、海外研究者との論点のすり合わせ作業も展開する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍によって、過去数年間、現地調査ができなかったことによる研究費残高が残っているため。なお、すでに現地調査は可能になっており、2023年度にはすべての予算執行が旅費を中心におこなわれることになっている。さらに、成果公開のための研究会やシンポジウムなども計画しており、2023年度には、すべての予算が執行される見通しである。また、英語での成果公開のためのプルーフ・リーディングなどの費用にも、使用計画として宛てている。
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