マニラの都市貧困層の再居住地を事例に職の喪失や長距離・長時間の通勤の困難について把握することができた。またそこでの社会的サービスの不足も大きな課題であり、具体的には水や電気の未供給、貧弱な材質で建造された家屋、病院や学校やコミュニティセンターの未建設といった問題点が指摘されていることが把握できた。 マニラのスクオッター地区から再居住地への移住が「雇用(employment)から自営(enterprise)へ」という変化を生み出していることも見えてきた。第一に、再居住地研究を、かつて生活していたスクオッター地区との関連で捉える点の重要性を確認した。スクオッター地区から再居住地への移住という変化に照準することで、再居住地をそれ自体のみで捉えるのではなく、スクオッター地区での生活との乖離という点から考察する必要性がわかった。 第二に、再居住地で必要となる生業(livelihood)とは何かについて、踏み込んで考察することの重要性を把握した。再居住地研究では生業機会の不足が盛んに主張されてきたが、その中身がいかなるものなのかを考察してこなかった。スクオッター地区では雇われて働く形式-大工やタクシー運転手や料理人など-が一般的であったのに対して、再居住地では自営業-携帯電話の修理業や数珠の作成販売など-として経営していくことが求められる。再居住地周辺には、「雇用」を可能にする場はないため、「自営」が求められるのである。だが、そうした働き方をしたことのない元スクオッター住人には、この変化は大きな障壁となることが見て取れた。
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