研究課題/領域番号 |
19K02125
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
城本 るみ 弘前大学, 人文社会科学部, 教授 (60302014)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ハンセン病 / 療養所 / 地域特性 / 将来構想 |
研究実績の概要 |
2021年度は現地調査による療養所の新しい発展形態への理解を深めることを目指していたが、残念ながら高齢者療養施設であるハンセン病療養所の直接訪問は厳しい状況にあった。関係者によると2021年の療養所の現状についてはおおまかに次のようにまとめることができる。(1)コロナ禍により各療養所とも外部との交流が断たれた状況が続いている。外部からの支援者訪問が減ることによって、社会的側面からの精神的ケアの減少や外出機会の減少が入所者のQOLに影響を及ぼしている。(2)直接的なケア提供者が近くにいる療養所内部の入所者とは別に、退所者支援は交流の減少によってさらに大きな影響を受けている。コロナ禍での退所者の社会的孤立問題は深刻である。感染者が多い沖縄では行動制限期間も長期化する傾向にあり、退所者同士の交流も減少している。 コロナ禍という特殊な状況は、感染症パンデミックが起こった時に、各国がその疾病に対してどのような対応をとるのかという新たな比較視点をもたらしたと考えている。世界的な感染症の流行という規模でみれば、日本もまたアジアの一地域にすぎない。台湾におけるコロナ禍の対応を鑑みると、台湾のハンセン病療養所の転用が政府の方針決定によるものであり、転用にともなう周辺地域の交通網整備がその後の病院運営に大きな影響をもたらしたことの意義をあらためて再確認することができる。 感染症と国家の関係は、それまでの感染症との向き合い方の歴史を如実に反映するものと考えられる。今回のコロナ禍を患者の権利や医療従事者の役割、医療従事者と患者との関係、また政治の担うべき役割や使命などについての議論が見直される機会であったととらえると、日本におけるハンセン病療養所の今後の将来構想全体の新たな枠組みがみえてくる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
コロナ禍により、高齢者施設である療養所に出かけて調査を行い、その周辺状況から地域特性を抽出するというフィールドワークを行うことができなかったため。また研究代表者本人が眼疾患によって論文執筆等の研究活動に支障をきたしていたため。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は国内の移動制限が緩和される傾向にあると考え、これまでに訪問できなかった療養所の訪問をあらためて目指したい。ただし入所者からの直接的な聴き取りは難しいことが想定されるため、医療関係者やケア提供者を中心とした聴き取りを行い、周辺状況をしっかりと把握することによって地域特性を理解したい。また学会等の機会を利用して、療養所関係者や専門家の意見を聴く機会を増やしたい。直接訪問が難しい場合は、可能な限りオンライン面談の実施を目指すなど、先方に負担がかからない方向を模索していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由):地域特性を理解するための現地調査を計画していたが、高齢者福祉施設である療養所がコロナ禍によって外部からの訪問受け入れを見合わせていたため。 (使用計画):計画を予定しながらこれまでに実施できなかった療養所(奄美和光園、駿河療養所、神山復生園)訪問が実施できるよう計画する。また関連学会に参加し、療養所関係者や専門家との対面による意見交換を行う。なお2022年度においても現地調査が難しいようであれば、研究の最終年度にあたるため、関連する文献資料の購入に充てたいと考えている。
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