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2020 年度 実施状況報告書

ハンセン病問題の最終局面に現前する諸課題への社会学的接近

研究課題

研究課題/領域番号 19K02126
研究機関埼玉大学

研究代表者

福岡 安則  埼玉大学, 人文社会科学研究科, 名誉教授 (80149244)

研究期間 (年度) 2019-04-01 – 2024-03-31
キーワードハンセン病 / 隔離政策 / らい予防法 / 偏見差別 / 家族訴訟 / 聞き取り / ライフストーリー
研究実績の概要

2003年に厚労省の外郭に設置された第三者機関「ハンセン病問題に関する検証会議」の検討会委員に委嘱されて以来だから、私の社会学者としてのハンセン病問題への関与もすでに18年となる。私は2016年に熊本地方裁判所に提訴された「ハンセン病家族訴訟」では、裁判所に「意見書」を提出。2019年6月28日の原告側「勝訴」判決にも大きく関与することとなった。その延長線上で、国は「ハンセン病に係る偏見差別の解消のための施策検討会」の設置を約束し、その一翼を構成する「有識者会議」のメンバーに私も推薦され、本来ならば、調査研究の学問的成果を社会正義の実現のために社会還元すべき絶好の機会を享受できたはずであるが、いかんせん、新型コロナウイルスの蔓延により、会議そのものが開けないまま時間が流れている。
私のような参与観察と聞き取り調査を主たる方法とするフィールドワーカーにとって、コロナ禍は、翼をもがれた鳥に等しい状況を課してくる。2020年度には、8月25日に大阪在住のハンセン病療養所からの退所者1名の聞き取りを日帰りで実施したのと、11月13~14日の日程で熊本地裁への菊池事件の再審申立行動への参与観察をなしえたのみである。調査協力者がコロナ禍でも〝どうぞおいでください〟と言ってくれないかぎり、身動きできないのは仕方ないことである。
その代わり、机上のパソコンに向かえる時間が増えた分、ひたすら、これまでの調査で溜め込んだ資料を整理し、論文等のかたちでの公表につとめた。雑誌『部落解放』に、「もう一つの隔離 ハンセン病療養所附属保育所を生きて」の連載を始めたのも、こちらから編集部に頼み込んでのことである。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

4: 遅れている

理由

この研究課題の初年次(2019年度)は、予定された調査をほぼ順調に実施できたが、2年次(2020年度)はコロナ禍のため、私のような、研究対象とする社会問題事象の当事者と会えて初めてまともな調査研究が成り立つフィールドワーカーにとっては、まったく身動きできない状況に置かれた。しかし、これはやむをえないことであって、いたずらに焦っても仕方ないと考えている。

今後の研究の推進方策

いまだコロナ禍がおさまる気配、見通しはない。私のようなフィールドワーカーは、ひたすら我慢を重ねるしかない。私の主たる研究対象者であるハンセン病回復者たちにしても、ハンセン病罹患者の家族たちにしても、高齢者が多い。私自身も73歳という高齢者である。お互い、新型コロナウイルスをうつし/うつされるリスクはできるだけ回避しなければならない。コロナ禍がおさまるまでは、これまでに蓄積された聞き取りデータの音声おこし、整理という地味な作業に集中するつもりである。

次年度使用額が生じた理由

多額の次年度使用額が生じたのは、ひとえに、コロナ禍のせいで、やむをえないことと考えている。
そのうえで、今年度も含めてまだ残り3年間の研究期間があるので、コロナ禍がおさまるまでは無駄使いをおさえて、研究費を備蓄し、自由な調査が可能となった時点で、有効活用したい。
たとえば、2019年11月15日に「ハンセン病家族補償法」が成立したが、つい先日の報道で、台湾と韓国で、植民地下にあった時代にハンセン病罹患者の子どもとしての体験を有する人たちがまとまって補償申請の手続きをすることになったと報じられていた。コロナ禍のせいで、研究期間の後半の短期間にまとまって研究費を支出することが可能となったことを逆手にとって、久しぶりに韓国、台湾でのフィールドワークを実施し、すでに80歳を越えている韓国、台湾の補償申請者たちからの聞き取りもやってみたいと考えている。

  • 研究成果

    (15件)

すべて 2021 2020

すべて 雑誌論文 (15件)

  • [雑誌論文] 罹患者の娘のみならず孫まで結婚差別――ハンセン病問題聞き取り2021

    • 著者名/発表者名
      福岡安則・黒坂愛衣
    • 雑誌名

      埼玉大学大学院人文社会科学研究科博士後期課程(学際系)紀要『日本アジア研究』

      巻: 第18号 ページ: 147~165

  • [雑誌論文] 菊池恵楓園附属保育所「龍田寮」最後の保母たち――ハンセン病問題聞き取り2021

    • 著者名/発表者名
      福岡安則・黒坂愛衣
    • 雑誌名

      埼玉大学大学院人文社会科学研究科博士後期課程(学際系)紀要『日本アジア研究』

      巻: 第18号 ページ: 167~184

  • [雑誌論文] もう一つの隔離 ハンセン病療養所附属保育所を生きて――連載第3回 今も残る「光田氏反応」の注射痕2021

    • 著者名/発表者名
      福岡安則
    • 雑誌名

      『部落解放』

      巻: 第799号 ページ: 112~119

  • [雑誌論文] もう一つの隔離 ハンセン病療養所附属保育所を生きて――連載第4回 浮浪児に非ざるも浮浪状態に近し2021

    • 著者名/発表者名
      福岡安則
    • 雑誌名

      『部落解放』

      巻: 第801号 ページ: 110~117

  • [雑誌論文] もう一つの隔離 ハンセン病療養所附属保育所を生きて――連載第5回 大浜女史に養子に誘われて2021

    • 著者名/発表者名
      福岡安則
    • 雑誌名

      『部落解放』

      巻: 第803号 ページ: 111~119

  • [雑誌論文] 差別とは何か、偏見とは何か(その2)2021

    • 著者名/発表者名
      福岡安則
    • 雑誌名

      千葉県人権センター『月刊スティグマ』

      巻: 第295号 ページ: 2~33

  • [雑誌論文] 社会構造としての偏見差別――ハンセン病家族訴訟に社会学者としてかかわって2021

    • 著者名/発表者名
      福岡安則
    • 雑誌名

      千葉県人権センター『ハンセン病元患者等に関する人権』

      巻: 紙面講座冊子 ページ: 1~37

  • [雑誌論文] もう一つの隔離 ハンセン病療養所附属保育所を生きて――連載第1回 「本妙寺部落」狩込みに遭う2020

    • 著者名/発表者名
      福岡安則
    • 雑誌名

      『部落解放』

      巻: 第797号 ページ: 112~119

  • [雑誌論文] もう一つの隔離 ハンセン病療養所附属保育所を生きて――連載第2回 1歳のときに「湯之沢部落」解散2020

    • 著者名/発表者名
      福岡安則
    • 雑誌名

      『部落解放』

      巻: 第798号 ページ: 108~113

  • [雑誌論文] 差別とは何か、偏見とは何か(その1)2020

    • 著者名/発表者名
      福岡安則
    • 雑誌名

      千葉県人権センター『月刊スティグマ』

      巻: 第293号 ページ: 2~34

  • [雑誌論文] 新型コロナ 差別から感染者守るべきだ2020

    • 著者名/発表者名
      福岡安則
    • 雑誌名

      『朝日新聞』

      巻: 東京版(2020.6.4) ページ: 17面

  • [雑誌論文] コロナ禍に想う⑧2020

    • 著者名/発表者名
      福岡安則
    • 雑誌名

      『解放新聞』

      巻: 第2965号 ページ: 8面

  • [雑誌論文] 本の紹介 理不尽な権力と闘う黄光男さんにパワーをもらう:『閉じ込められた命――ハンセン病と朝鮮人差別』2020

    • 著者名/発表者名
      福岡安則
    • 雑誌名

      『解放新聞』

      巻: 第2973号 ページ: 5面

  • [雑誌論文] 山の奥の奥まで入所勧奨は追いかけてきた2020

    • 著者名/発表者名
      福岡安則・黒坂愛衣
    • 雑誌名

      『ハンセン病問題の全面解決を目指して共に歩む会 会報』

      巻: No.37 ページ: 27~45

  • [雑誌論文] 日本の聖書におけるハンセン病訳語問題(使用言語は韓国語)2020

    • 著者名/発表者名
      福岡安則
    • 雑誌名

      韓国ハンセン総連合会『ハンセン』

      巻: 第101号 ページ: 51

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公開日: 2021-12-27  

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