研究課題/領域番号 |
19K02126
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
福岡 安則 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 名誉教授 (80149244)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ハンセン病 / 隔離政策 / らい予防法 / 偏見差別 / 家族訴訟 / 聞き取り / ライフストーリー |
研究実績の概要 |
私は「ハンセン病問題に関する検証会議」の作業部会にあたる「検討会」委員を委嘱された2003年以来、社会学者としてハンセン病問題の調査研究に従事してきた。2016年に熊本地裁に提訴された「ハンセン病家族訴訟」では裁判所に「意見書」を提出。2019年の原告側「勝訴」判決にも大きく関与することとなった。その延長線上で国は「ハンセン病に係る偏見差別の解消のための施策検討会」(2021年7月~2023年3月)を設置、私はその副座長に選任され、学問的成果を社会還元すべく努めてきた。 しかし、新たな調査研究自体は、コロナ禍が長期化するなかで、身動きの取れない状況に置かれた。私のような参与観察と聞き取り調査を主たる方法とするフィールドワーカーにとって、コロナ禍は大きな壁となった。 やむをえず、方針転換して、あらたな調査データの収集よりも、これまでの調査実績を踏まえて、研究成果を著作物にまとめることに精力を傾けることとした。 2022年度には、共同研究者の黒坂愛衣との共著の『ハンセン病家族訴訟――裁きへの社会学的関与』(世織書房、2023年)を上梓したほか、埼玉大学大学院人文社会科学研究科博士後期課程(学際系)紀要『日本アジア研究』第20号にハンセン病療養所入所者からの聞き取りの記録2編を寄稿、月刊雑誌『部落解放』に連載「偏見差別をなくしてほしい――ハンセン病問題にみる人生被害」の第15回から第24回の10編の論稿を寄稿、さらに、一般社団法人千葉県人権センターの『月刊スティグマ』に連載「差別とは何か、偏見とは何か」の「その10」から「その16」の7編の論稿を寄稿。それなりに研究実績をあげることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
この研究課題の初年次(2019年度)は予定された調査をきわめて順調に実施できたが、2年次(2020年度)~4年次(2022年度)は、コロナ禍のため、私のような、研究対象とする社会問題事象の当事者と会えて初めてまともな調査研究が成り立つフィールドワーカーにとっては、受難の年であった。しかし、これはやむをえないことであって、いたずらに焦らないこととした(代わりに、これまでの研究成果のまとめの作業に力を入れてきた)。
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今後の研究の推進方策 |
やっとコロナ禍がおさまる気配となり、休止が相次いだ「ハンセン病市民学会」の全国集会も、去年に引き続き、5月に鹿児島県鹿屋市で開催されることになった。とはいえ、鹿屋市にある国立療養所「星塚敬愛園」を会場に開催されるのではなく、市内の文化会館やホテルを会場に開かれる。それもあって、ハンセン病問題の被害当事者である病歴者やその家族たちの多くが参集することは望み薄である。そのような状況を踏まえ、できる範囲でのフィールドワークは再開しようと思うが、コロナ禍のあいだに態勢の立て直しとして精力を傾けてきた、これまでの調査実績の整理、まとめ、公刊の作業に力を入れたいと思う。そして、研究成果を問題の当事者や関係者、さらには社会学者たちと共有するなかで、ハンセン病問題研究の次のステップを構築することにつとめたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
多額の次年度使用額が生じたのは、ひとえにコロナ禍のせいで、やむをえなかったと考えている。 今年度は、最終年度であるので、チャンスがあれば調査旅行に出かけるほか、これまでの研究成果のとりまとめ、公表、成果の社会還元におしみなく時間と費用を投入し、予算を使い切りたいと考えている。
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