研究課題/領域番号 |
19K02128
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
北田 暁大 東京大学, 大学院情報学環・学際情報学府, 教授 (10313066)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 社会学 / アメリカ社会学 / シカゴ学派 / 科学社会学 / デュボイス / ハルハウス / 社会的なもの |
研究実績の概要 |
本研究は「社会と名指される集合的対象を、特定化し、その集合的状態の変化・改善を、何らかの統制された方法を用いて目指す社会的実践」としての社会調査の歴史・社会的機能を、19世紀末~20世紀半ばのアメリカ社会学、行政、財団の動向に照準して分析するものである。この作業は、現代にいたる量的/質的の区分の誕生や統計的手法の採用の起源を確証し議論を活性化させると同時に、欧州と異なるsocial概念のアメリカ的用法の解明に寄与し、近年注目を集めている「社会的なもの」をめぐる議論のブラッシュアップを企図した。 焦点を当てたのは、シカゴ学派とは異なる形で社会調査にかかわり、「社会的なもの」を追究したデュボイス、ハルハウスグループの社会的・学問的実践である。デュボイスは社会学者を自認し、実際ある時期までは相当に自覚的に制度的にも学問的にも社会学のアメリカでの展開に寄与した人物である。とりわけ社会調査に関しては、シカゴ学派とは異なる形でその可能性を十分に開拓した社会学研究者であったといえる。しかし、シカゴ学派の隆盛と比較したとき、彼がおかれた制度的・資金的・学問的状況は決して恵まれたものではなかった。その背後に人種差別問題があったことは間違いないが、本研究では、人種差別問題と制度的・資金的問題との複雑な関係性のあり方を、科学社会学的な観点から分析し、それがどのように社会調査の方法論の違いに結びついていたのかを検討している。一方、ハルハウスグループは社会学者としての自認は希薄でありながら、というより、むしろそうしたカテゴライズを拒絶しつつ、社会調査運動の流れを汲みつつ、シカゴ学派とは異なる社会調査のあり方を模索していた。ここにはジェンダーや、当時の官民学の複雑な関係性が影響を与えている。こうした非主流派の社会調査が可能にしていた「社会的なもの」を摘出することが本研究の大きな目的の一つである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍の影響で、当初予定していたアトランタ、シカゴ、ドイツでの在外調査の実施が困難となり、国内で集められる史料・資料に限定して、当該トピックに関連する研究状況、入手可能な一次文献をもとに研究作業を再構成した。研究の理論的・方法論的方向性はおおむね達成できているが、現地での一次史料収集の機会が著しく制限され、史料内在型の研究にやや遅延が生じていることは否定しがたい。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究については、在外調査の可否がきわめて重要なファクターとなる。現状では、一週間程度の在外調査を想定したとしても前後あわせて膨大な出張期間を要するため、資金的にも通常の職務的にも当初の予定通りの実行が難しいとの判断は否めない。そのためコロナをめぐる状況が改善されない場合を想定し、大まかな方針について変更することなく、、科学研究費としての適正かつ有効な使用について昨年度以来検討してきた。現地での協力スタッフの依頼など資料取り寄せのための方法を模索している。また、二次的な史資料についてより包括的な収集を試み、理論的な側面での学術貢献にウェイトを置くことなども検討している。いずれにしても、適切なタイミングで現地調査を実行することが好ましいことは間違いなく、時機を十分にうかがいつつも、国内でなしうるそのための準備作業を万全とし、成果公開とあわせて研究プロジェクトを進めていくこととしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍による在外資料収がきわめて困難となったため。次年度使用額と当該年度以降分として請求した(する)助成金を合わせた使用計画については、コロナ禍がある程度収束し、日程の確保が可能となった場合に(1)シカゴ・アトランタでの資料収集、(2)ドイツ・ケルン大学等での資料収集に当てる。それが状況的に難しい場合には、現地での資料収集協力者(および国内での協力者)への謝金・人件費と資料収集に係る経費、一次・二次文献の経費に充てる。
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