研究課題/領域番号 |
19K02128
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
北田 暁大 東京大学, 大学院情報学環・学際情報学府, 教授 (10313066)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 社会調査史 / アメリカ社会学 / シカゴ学派 / ソーシャルワーク / デュボイス / ラザースフェルド / 社会的なもの / 福祉国家 |
研究実績の概要 |
コロナ渦の影響もあり、日本において収集可能な文献資料を中心に作業を進めていくなかで、研究課題のうち、「女性たちの社会的なもの」、つまりアメリカのソーシャルワークにおける調査実践とそれが持つ社会学的含意についての考察が大きく膨らむこととなった。2023年度は、ラザースフェルドやエーリッヒ・フロムの「潜在性」に定位した調査分析実践についての史資料を収集・分析すると同時に、「女性たちの社会的なもの」の検討に多くの時間資源を費やした。 第一に、社会学における象徴的相互作用論との対照において、ソーシャルワーク、社会事業額における「機能的アプローチfunctional approach」が持つ理論的・歴史的含意について、とりわけバージニア・ロビンソンの言説実践に定位し、「相互行為という社会」の持つ思想史的、社会史的な意味について検討作業を進めた。第二に、とりわけイーディス・アボットの調査研究実践の足跡に照準し、「統計」が女性たちと「公的なもの」との関係をどのように構成し、調査を媒介とした女性たちの協働性の構築にどのように寄与したのかを考察した。第三に、「相互行為としての社会」「公的なものとの連携/統計による正当化により補足される「社会」」とも異なる「「社会」主義」が焦点化される経緯を、メアリ・ヴェン・クリーク、パーサ・レイノルズの活動、言説に即して検討した。最終的に、1930年代における福祉国家/社会の生成において、社会的調査/診断/治療という実践が果たした構成的な役割を明らかにすることを目指している。 現在、上記「女性たちの社会的なもの」をめぐる論考をまとめており、今年度内に公刊する予定である。また、それと並行して、1930年代における市場調査の展開と、社会調査技術・思想の関連について考察を進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、「社会認識の方法(調査など、どのようにして対象である社会的世界を把握するのか)」と、その方法と相即した「社会像(対象としての社会をどのようなものとして捉えるか)」、社会への規範的コミットメントとの関係性に着目し、①シカゴ学派~ラザースフェルド、ストゥファにおける調査手法の開発、実践の展開、②デュボイス/パークにおける社会調査観、実践の相違、③ソーシャルワークにおける調査、診断、処置の構造的変容、④優生学および第三帝国における社会調査、ソーシャルワークの展開とアメリカへの影響を分析検討課題としている。①③については当初の計画以上に進展しており、とりわけ③については年度内に論文、書籍などの形で成果を公開していく予定である。②と④については史資料を収集、論点整理している段階であるが、成果公開の目途を適宜立ててくこととしたい。総じて順調に研究を進めているものと判断している。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度は研究をとりまとめる時期と認識している。上記①③のテーマ系については、成果公開のための準備作業を進めていく。②については、パーク以降の「社会的距離」研究の展開を十分に踏まえ、とりわけ①との関連を検討し、論文などでの成果公開に向けた準備を行う。④については引き続き文献ベースでの論点整理を行う。基本的に、日本において直接的・間接的に収集可能な一次資料、二次資料の検討をベースとしながら、適宜アメリカ、ドイツなどでの資料収集を検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
想定していたアメリカ、ドイツでの社会調査史資料収集が、コロナ禍のため十分な形で行う見通しが得られなかったため。次年度においては、現状の研究進捗状況、円安や航空機・滞在費の高騰などの事情などを踏まえつつ、海外での資料収集を検討することとしたい。
|