本研究は、部落差別解消とソーシャルワークの結節点としての「隣保館」に着目し、その機能強化を図るアクションリサーチを基本として進めてきた。研究期間の1年目は、最も多くの館数を数える兵庫県と、最も職員数の少ない静岡県でのフォーカス調査を実施することができた。その調査結果を通じて、厚生労働省や法務省により期待されている隣保館の役割を果たせるほどの条件が整備されていないことが改めて明らかとなった。一方で、いくつかのグッドプラクティスが生まれているケースもあり、特に、その差別規制実践や地域福祉実践のディテイルに関する調査を継続的に行い、研究成果の公表を、被調査者との共同にて達成した。 2年目は、本格的なコロナ禍に突入することになり、全国的なフィールドワーク調査に多くの制約を受けたものの、全国組織である「全国隣保館連絡協議会」の依頼により、コロナ禍における隣保館の実態把握に関する設問設計と分析を実施することができた。その過程で、日頃から意識的に隣保事業に取り組んでいる館であればあるほど、コロナ禍での創意工夫が見られることが確認された。コロナ禍における偏見と差別の悪化や、社会的孤立などの関係の寸断など、新しい社会状況でより一層の役割が期待されることが改めて明らかとなった。 3年目は、1年目と2年目の研究成果を、当該施設に還元する研修会や講演会の機会を多く得た。九州ブロック、四国ブロック、中国ブロック、近畿ブロック、東日本ブロックというすべてのブロックで、成果の共有と今後の展望を共同して考案する作業を進めた。大きな課題であったのは補助事業を展開する厚生労働省の協力を十分に得られなかったことである。今後の協力連携を期待したい。加えて、隣保館の歴史的な変遷について、特に、同和行政による特殊化のプロセスの戦後的検討を行い、研究成果を公開することができた。
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