本研究の目的は、中国帰国者の生成的な境界文化の国際社会学・民族誌学的な研究分析を通じて、中国帰国者をめぐる日中両国の包摂と排除のメカニズムの比 較検討を行いつつ、重層的な境界による社会的拘束性と、拘束を受けつつ生活世界を構築していく生成的な境界文化の民族誌を描くことにある。具体的にはこれ までの研究成果をもとに、マルチサイテッド・エスノグラフィー手法(multi-sited ethnography)を用いて、一次史料調査の便利さや、満洲移民送出の歴史と中 国帰国者の居住人数を考慮して選定した日中両国の複数の地域で資料調査を行うほか、当事者と他の住民、および、関係者への聴き取り調査を実施するととも に、「境界文化」の理論的妥当性の検証を行う。 今年度は最終年度にあたり、日本国内主に九州 (長崎県と熊本県)在住の中国残留日本人を対象に、日中間を跨がる生活世界の実態とそれについての意識等に関するインタビュー調査を行ったほか、今後の研究活動に向けて予備的なアンケート調査を実施した。また「中日和平友好条約締結45周年長崎華僑華人留学生座談会」にて「日中関係と『中国帰国者』」を発表したほか、オートエスノグラフィ研究会や、中国ハルビン市にある養父母聯誼会の訪問団を招いて「中国帰国者をめぐる歴史と記憶の座談会」を共催・主催した。中国での現地調査は短期間だったが、研究成果の教育への還元も兼ねて学生たちを連れて大連と旅順を訪問した。研究期間の全体成果として、日中両国で調査活動を行ったほか、研究発表18回、論文等の公表8本が挙げられる。
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