研究課題/領域番号 |
19K02132
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研究機関 | 名寄市立大学 |
研究代表者 |
小野寺 理佳 名寄市立大学, 保健福祉学部, 教授 (80185660)
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研究分担者 |
梶井 祥子 札幌大谷大学, 社会学部, 教授 (90369249)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 世代間関係 / 祖父母・孫関係 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、「交替居住(親の離婚後、未成年子が定期的に父あるいは母のもとで一定期間暮らすこと)を経験した孫世代」を取り上げ、彼らが世代間支援をめぐる祖父母・孫関係をいかに主体的・選好的に築こうとしてきたのかを明らかにすることである。2019年度は、『「交替居住する孫世代」が築く世代間支援関係の日本的特質に関する研究』として日本国内での面接調査を計画した。日本では単独親権制度の下で交替居住(あるいはそれに準ずる生活スタイル)は普及しているとはいえない。そこで、調査対象者の確保にあたっては、条件を厳格に定めず、親の離婚を経験した若者(18~28歳)を広く対象とし、そのなかに離婚した父母双方との生活経験をもつ者をとらえることを目指した。都市部において配付されているフリーペーパーにボランティア募集の広告を掲載し調査協力者を募った結果、一時的でも別れた両親の家を行き来して生活した経験をもつ者を対象者とすることはかなわなかったものの、親権者である母親と同居しながら、父親と非定期的に面接交流している者に話をきくことができた。インタビューの結果、先行研究で指摘されてきたように、母親との同居は、孫である若者と母方祖父母との関係を緊密にし、彼らと父方祖父母との関係を希薄化することにつながることが確認された。一方、母親と母方祖父母が疎遠である場合に母方祖父母と孫の交流のきっかけがつくられず、母方祖父母に対する孫の親愛の情が高まらない事例、母親と父方祖父母との良好な関係が維持されている場合に孫と父方祖父母の交流は途切れることなく続いており、不在の父親を飛び越えて、父方祖父母と孫とが双方とも積極的に世代間関係を築こうとしている事例も得られた。この他、2020年度にはスウェーデンにおいて同様の調査研究を計画しているため、その調査研究に必要な文献や資料を収集し検討をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現代社会における祖父母・孫関係は、所与の親密な関係としてではなく、状況に応じ、双方の意志や選好によって築かれる関係として把握される必要があると考えられるが、この視点からの研究蓄積は少ない。研究代表者は、これまでの調査研究によって、孫の親の離婚や再婚という状況下、祖父母世代が「多世代の紐帯としての働き」を主体的・選好的に成していることを明らかにしてきたが、孫世代の主体性・選好性については未解明のままである。そこで、本研究は、親の離婚や再婚による家族の再構築において「孫世代は世代間関係(世代間支援をめぐる祖父母・孫関係)をいかに主体的・選好的に築いているのか」という問いを設定した。この課題を明らかにするためには、孫世代、孫の親世代、祖父母世代の多様な条件(ジェンダー、社会階層、生活環境)に基づいた分析をすることが重要である。2019年度の国内調査においては、親の離婚を経験した孫世代を対象とするインタビューをおこなうことにより、彼らが親の離婚を契機として両親につらなる2組の祖父母(母方、父方)との関係をどのように築いてきたのか、そこにはどのような意図、期待、悩み、葛藤などがあったのかをとらえることを試みた。結果として、孫と祖父母の交流は、親権者として同居する親の「世代間の仲介者」としての態度や働きに大いに規定されるものの、成人前後以降の交流については孫自身の意志で取捨選択される部分が大きいことが示され、豊かな支援・交流の提供を可能にする祖父母の経済力や社会階層の相対的な高さが、当該祖父母との関係の維持・発展に対する孫の関心をより高くしている可能性が示唆された。これまでの世代間関係研究においては、孫世代は、一般に、祖父母世代からの献身的な愛情と支援を享受する存在とされてきたといえるが、彼らの世代間関係構築への主体性・選好性の一端をとらえることができたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は『スウェーデンにおける「交替居住する孫世代」が築く世代間支援関係に関する研究』としてスウェーデンのエステルスンド市とストックホルム市における調査を計画し、国内調査も継続することを予定している。スウェーデン調査として、当初はエステルスンド市のみを調査対象地としていたが、大都市圏ストックホルム市での調査も加えることとした。調査の中心は親の離別を経験した若者へのインタビューであり、交替居住の有無、交替居住の取決め内容と実際、祖父母からの支援などを問い、親の離別が子ども自身のネットワークや家族関係意識にどのような影響を与えたのかを明らかにすることを目指している。この他、親の離別を経験した子ども対象のサポートプログラムの効果や困難を探るため、子どもを当該プログラムに通わせている保護者へのインタビューをおこなうこと、スウェーデンにおける交替居住の実態と交替居住の内実を左右する属性などについて問うために、コミューンの子ども福祉・家族福祉担当職員から話を聞くことの準備を進めている。しかしながら、新型コロナウィルス感染が世界中に拡大している現況において、安心・安全な環境での調査実施の可能性は限りなく低くなりつつあり、2020年度のスウェーデン調査については、これを中止し、来年度以降に延期することを検討し始めている。調査計画の変更という事態となった際は、このスウェーデン調査を本研究期間のなかで確実に実施できるよう調整を続けるとともに、状況を見て、もし可能ならば国内調査だけでも再開することを検討したいが、国内外の調査がすべて不可能であるような状況が続く間は、これまでの調査で得られたデータの整理・分析、過去の科研調査のうち本研究に関連する調査(スウェーデンおよび国内)で得られたデータの再分析、文献や情報の収集をおこなうこととしたい。
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