研究課題/領域番号 |
19K02137
|
研究機関 | 清泉女子大学 |
研究代表者 |
大野 俊 清泉女子大学, 文学部, 教授 (10448409)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 介護移民 / 市民権 / 定着 / 社会統合 / 経済連携協定 / 技能実習生 / 介護留学生 |
研究実績の概要 |
日本に多数の「介護移民」を送り出す東南アジアでの現地調査予定は、長引くコロナ禍のために、実施できなくなった。このため、日本国内での調査に専念した。新型コロナウイルスに感染すると重症化しやすい高齢者が入居の介護施設は多くが入所者の家族の面談も制限する措置をとり、訪問調査も極めて難しくなった。 感染が比較的に収まっていた2020年10月、近年「介護移民」が急増した福岡県を訪れ、以前から連絡を取り合っていた介護施設、介護福祉士養成の専門学校、介護分野の技能実習生向け研修会で関係者面談ができた。そこでフィリピン、ベトナム、ミャンマー、中国からの介護スタッフ約20名を対象にソーシャル・ディスタンスを取りながら面談した。施設長、専門学校や研修実施機関の責任者、自治体担当者、監理団体責任者らとも面談した。 国内では他に、介護福祉士資格を得るための研修を日本とフィリピンで実施している、大阪市に本社を置く人材養成機関、複数国籍の介護スタッフを雇用している千葉県内の介護施設でも外国人スタッフと日本人管理者を対象とした聞き取り調査を実施した。このほか、日本定住のフィリピン人、インドネシア人の介護スタッフ数名を対象としたオンライン面談調査を実施した。 「介護移民」の市民権や定着の方策を考えるうえで重要な欧米の受入れ先進国での調査も、パンデミック下で困難になった。その中でもハワイ大学公衆衛生研究所(Office of Public Health Studies)は「外部教授」の肩書を付与して受入れ態勢を整えてくれた。このため、2020年12月初めから3カ月間、ハワイに滞在し、高齢者介護施設を経営したり、そこで雇用されるフィリピン人・日本人らの移民、介護関係者合わせて約30人に面談調査を実施した。この調査は、訪問とオンラインの両方で実施し、日本の今後の介護移民受け入れに示唆できる点も含めて調査した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「研究実績の概要」にも記したが、「パンデミック」と宣言された新型コロナウイルスの地球規模の感染拡大に伴い、海外での調査は限定的なものとなった。米国の中では比較的に感染が抑えられ、2020年11月以降、陰性証明書持参の日本人旅行者の自己隔離免除措置をとっているハワイのみ約3カ月間滞在した。そのうえで、ハワイ大学教員らの手厚い支援も得ながら、この厳しい状況下では比較的に順調な調査ができた。 一方、日本国内での調査は、限定的な期間に限定的な場所でのみ調査はできたものの、訪問調査については限定的なものとなり、ケース・スタディのサンプルも限られた。その分、当初の研究実施計画通りには調査は進捗していない。
|
今後の研究の推進方策 |
調査代表者は2020年度は所属先の大学から1年間の特別研究期間(サバティカル)を頂いた。当初の計画では、その期間の大半をオーストラリア、フィリピンなどでの在外研究の時間に充てる予定であった。ところが、長引くコロナ禍はそれを許さず、日本国内での研究を余儀なくされた。 こうした予想もできない事態への対応として、過去にご縁のある京都大学東南アジア地域研究研究所に「連携教授」として所属し、パンデミック下で介護・看護の現場で勤務する外国人の意識やケア実践に着目する共同研究「新型コロナウイルス感染拡大に伴うケアの意識・実践の変容ー日本定住外国人看護・介護スタッフに焦点をあてて」に研究代表者として着手した。同研究所の競争資金をもとにした共同研究(5大学に所属の研究メンバー6名)は2021年度も実施予定である。 本科研研究は、上記の共同研究とも連動しながら進める。具体的には、これまで日本の介護分野の外国人として主流となりつつあった経済連携協定(EPA)に基づいて来日のEPA介護スタッフのほか、施設側の旺盛な需要に沿ってコロナ禍前まで急増傾向にあった介護分野の技能実習生や在留資格「介護」の取得を目指す専門学校生(いわゆる「介護留学生」)、新在留資格「特定技能」の介護人材についても、その市民権や定着度の側面にフォーカスしながら研究を進める。コロナ禍がもたらした変化にも着目する。 上記の共同研究メンバーのほか、日本で働く外国人介護従事者のネットワーク、日本国内の研修機関、介護福祉士養成学校の団体などの協力も得ながら、量的にも意味のある調査に発展させてゆきたい。また、パンデミックが今後、収束に向かい、送り出しの東南アジア諸国、あるいは欧米の受入れ先進諸国のうち安全に入国・滞在できる国があれば、介護移民の最新の動向について現地調査にあたる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスのパンデミック化とその長期化に伴い、日本国内および国外で予定していた現地調査のための出張が、限られた期間、限られた地域でしかできなかった。このため、旅費の支出が限られ、次年度繰り越し金が発生した。 研究代表者は2021年度の早い時期にワクチンの2回接種を予定しており、同ウイルスに対する免疫の獲得を期待している。こうした事情もあり、2021年度には前年度に十分に実施できなかった国内外での現地調査をより活発に実施し、本研究費を大いに活用していきたい。
|