研究課題/領域番号 |
19K02137
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研究機関 | 清泉女子大学 |
研究代表者 |
大野 俊 清泉女子大学, 文学部, 教授 (10448409)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 介護移民 / 市民権 / 定着 / 社会統合 / 経済連携協定 / 技能実習生 / 介護留学生 / 特定技能 |
研究実績の概要 |
2021年度も新型コロナウイルスの世界的流行が続いたため、当初計画の海外調査は実施できず、日本国内の高齢者施設で働く外国人スタッフやその雇用者らへの面談が前年度同様、調査の中心となった。インフォーマントとの面談はオンラインが中心だったが、感染が比較的に収まっていた2021年12月には福岡県に出張して介護コースの専門学校の中国人留学生、介護施設で勤務するフィリピン人介護福祉士、ミャンマー人技能実習生らを対象にした対面調査を実態した。本年度、オンラインと対面で面談したインフォーマントは約40名である。 雇用者側が外国人の国家資格試験の合格に向けて支援する余裕がなくなるなか、福岡県ではEPA人材から介護留学生や技能実習生に外国人雇用の重点をシフトする法人が多いことがわかった。ただ、これも長引く出入国制限で、新規採用者の入国が大幅に遅れているケースが目立った。 コロナ下でも人手不足が深刻な介護分野では、外国人労働者を他業種からの転職組をふくめて職場に取り込む動きが活発である。その場合、賃金が高い首都圏が優位に立ち、介護福祉士の資格を持つ者の間では地方から都市部への流動が起きていることが関係者の証言から確認できた。介護施設でアルバイトをする留学生のほか、単身の外国人介護福祉士・技能実習生らが、コロナ禍で欠勤する日本人スタッフの「穴埋め人材」として重宝され、職場での存在感を高めたケースが多いことも確認できた。 一方で、彼らは一時帰国はむろん日本国内における行動制限が他業種以上に強く、単身でストレスをためこんでいるケースも多い。ウイルスに感染して、その後遺症に苦しんでいるケースも散見された。 コロナ禍体験を経ても日本定住・永住志向の外国人介護人材は少なくない。それだけに、明確なキャリアパスの提示や、家族帯同の権利付与面などでより柔軟な受入れ態勢の確立が求められていることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年9月に中国・北京周辺で介護労働者や海外派遣労働者に関する調査が実施できたものの、それ以降の新型コロナウイルスのパンデミック化の長期化に伴い、当初、考えたような、ベトナム、ミャンマーなど日本への送出し国で「介護移民」の実情を調べる計画は実行できなかった。 このため、日本各地で活躍する「介護移民」に焦点を移して調べているが、感染予防の観点から訪問調査を受け入れてくれる介護施設の数は限られ、介護現場における詳細な問題の把握には困難が伴っている。
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今後の研究の推進方策 |
本報告書を執筆している2022年5月初め時点で新型コロナウイルスの感染状況は日本の多くの地域で減少傾向をたどっており、高齢者施設などを訪問しての対面調査の難易度が低くなる兆しがある。 このように感染が減少をたどる場合、比較的に大きな規模で外国人介護人材をうけいれている社会福祉法人に依頼して、包括的な訪問調査を実施したい。その場合の調査のポイントは、在留資格による介護スタッフの意識(来日の目的、介護福祉士の資格取得への意思など)、彼らの意向を踏まえての雇用者側の職場定着、社会的統合についての意識である。 また、日本の「介護移民」の中でベトナム人労働者が占める割合が急速に高まっているため、ベトナム人介護人材事情に詳しい比留間洋一・静岡大学特任准教授に本研究の研究分担者になっていただき、日本で就労するベトナム人介護スタッフの意識や市民権の現状などについて調べる。 また、海外旅行者の入国が可能になりつつあるフィリピンなど介護人材送出国に出張しての調査も検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
長引く新型コロナウイルスのパンデミック化のために、当初予定していた海外出張しての調査ができず、国内出張しての調査も極めて限定的になったため、次年度繰り越しの相当額の研究費用が生じた。 世界的にコロナ禍がやや収まる気配をみせている2022年度は、国内外の出張をより活発にし、インフォーマントとの対面調査をより頻繁に実施する予定である。
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