本研究課題の目的は、就職氷河期世代前後で若年期のキャリア形成にいかなる違いが生じたのかを明らかにすることにある。就職氷河期世代は、景気低迷期に職業生活を開始せざるを得なかった世代であるとともに、4年制大学への進学率の上昇を経験した世代でもある。本研究課題では、この特異な世代の進学行動および初期キャリアの特徴について検討を行った。進学行動については、浪人経験に注目し、浪人経験が本人の所得や結婚の成否に及ぼす影響について分析した。初期キャリア形成については、系列分析を用いて、初期キャリアの特徴を抽出する指標を計算し、コーホート間および学歴間の比較を行った。 初期キャリアの形成状況の比較検討を行うため、系列の特徴を示す種々の指標を用いて、学歴間格差のコーホート比較を行った。結果、男性では、大学以上の高学歴者を含め、1990年代以降に初期キャリアは不安定化したことが明らかになった。しかし、キャリアが不安定化した直近のコーホートでも高学歴者の優位性は維持されていた。大卒者同士で比較すれば、それ以前のコーホートに比較して、キャリアの状況は悪くなっているが、高卒層のキャリア形成の状況も同様もしくは大卒者以上に不安定化したことが理由である。女性では、結婚や出産に伴う就業中断が生じやすかったため、学歴を問わず不安定度が高い状態が続いてきたが、男性と同じく1990年代以降のコーホートでさらなる不安定化が生じていたことが明らかとなった。 1990年代半ば以降、浪人は大幅に減少している。このコーホートも含めて、浪人経験が収入に及ぼす影響を検討したところ、男性では過去には存在した浪人経験と収入の関係が、新しいデータでは見いだせなくなっていた。また、男性の場合浪人経験と結婚にも関係がなかった。女性では、予想に反し、収入に対するプラスの効果と結婚に対するネガティブな効果が確認された。
|