研究課題/領域番号 |
19K02144
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
佐藤 郁哉 同志社大学, 商学部, 教授 (00187171)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 共約可能性 / 大学改革 / 数値指標 / ビジネスセクター |
研究実績の概要 |
本研究では、国家だけでなく機関レベルでも、研究政策の策定や研究評価において、研究業績及び研究者個人に関する、インパクトファクターなどを代表とする量的指標を中心とする評価が主流の位置を占めるようになっている現状を背景にして、数値指標の普及の実状に加えて、その効用とともに限界や弊害について明らかにしていくことを目指している。 2020年度も、前年度に引き続き、日本の高等教育セクターの事情に焦点をあて、「大学改革」と呼ばれる政策の歴史的背景や意図せざる結果などについて聞き取りと文献資料の収集・分析を中心にして検討を加えていった。特に注目したのは、高等教育改革に限らず近年行財政改革に関連してビジネスセクターから援用された経営・評価モデルとしてあたかも三題噺のようにして取りあげられてきたEBPM、PDCA、見える化の実情とその帰結である。これらの「三つ組み」の方針においては、いずれも数値指標による業績評価が極めて重要な意味をもっている。 しかしながら、検討の結果明らかになってきたのは、これら3つの「改革小道具」が単なるスローガンとして形骸化しているという傾向である。また、それが文字通り意図せざる結果として、大学現場を疲弊させ、ひいては学術研究の進展に重大な障害の1つになっているという可能性も浮かび上がってきた。これらの傾向の背景には、明らかな失敗を含む思わしくない政策効果についての評価に関する真摯な現状認識を怠ったままに、一方で研究と教育の現場に対して「客観的指標」ないし「エビデンス」に基づく進捗管理と業績評価を求める管理主義的発想であると言えるだろう。 2020年度におこなった研究では、以上のような検討の結果を2点の英語論文および3点の日本語論文、1点の単行本の章として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述のように、研究成果は5本の論文および1点の単行本所収の章として結実している。その点に限っていえば、概ね順調に推移していると言えるだろう。ただし、1年以上にもわたって続いてきた新型コロナウィルス感染症の蔓延状況によって、当初予定していた、海外を含む遠隔地への移動をともなうフィールドワークは事実上不可能であった。
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今後の研究の推進方策 |
初年度は主に本研究の背景ともなった、研究代表者が数年来継続しておこなってきた、高等教育政策およびいわゆる「大学改革」の意図せざる結果を中心とする調査結果を踏まえて分析フレームワークの彫琢と基本的な事実関係に関する検討を進めてきた。2年目からは、より実態に即した調査を通して幅広く情報を収集していくことが主眼となったが、当初予定していた、実際に数値指標を全面的に取り入れて研究評価と研究者・教員の処遇をおこなっている日本各地の大学数校を事例研究の対象に取りあげて実査は繰り延べざるを得なくなっている。 今後上記の課題を遂行していくためには、当初の実査をリモートによるインタビューや可能な限り資料調査の範囲を拡大していくことが研究の推進方策として考えられるだろう。
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次年度使用額が生じた理由 |
遠隔地へのフィールドワークが事実上不可能になったことが主な理由となって次年度使用が生じることになった。今後は、感染症の収束(あるいは拡大)状況を見極めながら、現場調査が可能になった段階で繰り越し分を含めた予算を執行することを想定している。
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