本研究では、中央集権から地方分権への方向性を掲げてきた英国のローカリズム政策に着目し、中央政府から地方自治体への分権化と、地方自治体から地域コミュニティへの分権化という二重の意味での分権政策について、その積極面と消極面を考察するなかで、日本の地方分権政策との相違点や共通点を比較検討してきた。しかし本研究期間の途中で新型コロナウィルスのパンデミックが発生し、その後は英国に渡航することができなくなったため、初年度の英国調査で得られた聞き取り内容を参照しながら、その比較対象である日本の地方分権政策に関して、主に文献・資料研究を通じて従来の地方分権をめぐる政策および議論の経緯を把握してきた。ここでは、中央と地方の政府間関係(団体自治の局面)および地方自治体から地域コミュニティへの権限付与(住民自治の局面)という両面から分析を行い、とくに日本の地方自治において、前者に比して後者の位置づけが非常に弱い点が明らかになった。また、地方分権改革においては、中央と地方の主従関係を前提とした従来の補助金行政によって、中央政府主導の企業誘致や地域開発に依存してきた地方自治体の脆弱さが課題とされ、機関委任事務の廃止から自治事務の創設、国税から地方税への税源移譲と、地方自治体の裁量を拡大する措置がとられたものの、それらは極めて不十分であり、中央政府と地方自治体の主従関係は依然として存続している。そのため、地方自治体から地域コミュニティへの権限委譲もほとんど進展せず、地方分権改革は未完のままに、「地方創生」という新たな名称が付与されたものの、地域・地方の衰退はとどまらない状況にある。なお、本研究は、次年度まで延長することも可能であったが、新型コロナウィルス感染はまだ終息しておらず、最終年度に急遽英国調査を行うことで得られる成果は限定的となるため、本年度を最終年度として成果報告書を作成することとした。
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