研究課題/領域番号 |
19K02149
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研究機関 | 大阪経済法科大学 |
研究代表者 |
呉 泰成 大阪経済法科大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (00795528)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 収容 / 仮放免者 / 被収容者 / 難民認定申請者 / コロナ禍 / 大村 / 朝鮮人 |
研究実績の概要 |
まず、2020年度夏から仮放免者に対する聞き取り調査を行った。コロナ禍という状況を念頭に(1) 移動の制限などによる生活変化、(2) 経済悪化に伴うコミュニティ、支援者からの援助などの変化を分析した。それを「運用と裁量に委ねられた人生:コロナ禍で浮き彫りとなった仮放免者の処遇」(鈴木江理子編『アンダーコロナの移民たち』明石書店に収録)としてまとめた。調査を通じて明らかにされたのは、近年みられる仮放免者と難民認定申請者に対する規制、監視強化であり、それに伴って生活条件が厳しさを増していたが、さらにコロナ禍によって仮放免者の処遇がさらに悪化させていることである。この仮放免者の聞き取り調査を通じて感じたのは、難民認定申請者とそうでない超過滞在者は、それぞれ「仮放免者」という同じカテゴリーであり、就労ができないなど、置かれた生活条件は類似しているが、退去強制の可能性という側面からは大きな相違点があることである。また家族の国籍が異なるケースも多く、その点については送還と関連してさら分析していく必要性を感じた。 他方で、2021年3月3日に「コロナ禍における入管収容施設と非正規滞在外国人」(於立教大学)のオンライン講演会が行われ、そこで行った発表(収容施設の概説)を基に、「過去と現在の外国人収容は何が異なるのか:入管収容施設の形成と変遷」という原稿を執筆し、公開講座の『採録集』に収録された。ここでは、(1)入管収容施設は「朝鮮人収容所」として大村収容所から始まるが、その役割はすでに1988年に終わっていること、(2) 入管法が冷戦の産物であるにもかかわらず、1990年代以降のニューカマーや難民認定者の増加など、過去旧植民地出身者の状況とは異なる新たな局面において十分な対応ができていないことを明らかにした。これらの点を踏まえると、多文化共生時代において、収容、退去強制、難民認定に関しては根本的な見直しが必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍により、国内調査、海外調査(主に韓国)ができない状態となっている。国内調査においては、(1) 大村、大阪など予定されていた収容施設の調査ができない状態である。(2) 牛久や品川の収容施設の調査においても、収容施設までの移動はもちろん、収容所での集団感染を防止する目的で仮放免が多く出ている現状やコロナが発生することで面会も制限されたりしているので、思うように調査を進めることが制約されている。 (3) 仮放免者が多いコミュニティにおいても、コロナ感染者が発生したこともあり、聞き取り調査も慎重に行う必要があって調査は進んでいない。幸いに、2020年に仮放免者の聞き取り調査以降に、蕨・川口市でクルド人支援を行う支援団体に参加しており、コロナ禍のなかで仮放免者、難民申請者など当事者を含むコミュニティ状況の変化について間接的に把握している。今後も感染予防を徹底しながら、どのような形で調査ができるか見極めて進めたい。
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今後の研究の推進方策 |
今後の予定としては、文献調査と聞き取り調査を予定している。まず文献調査は、非正規滞在者と難民申請者の処遇と収容の関係の国際比較である。日本でみられる全件収容主義、難民申請の不認定者の収容がほかの国でも同じくみられるかを検討する予定である。比較対象としては、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、韓国、台湾を想定している。 次に、聞き取り調査は、(1) 収容経験が当事者にもたらす影響と、(2) 仮放免者を含む難民認定申請者の生き残りとコミュニティの役割に関する調査である。(1) の長期収容が、収容当時のみならず、現在の生活においてどのような影響をもたらしているのかを明らかにする目的である。(2) は、就労が制限されている仮放免者などは、日本でどのように生き残りを図っているかをエスニック・コミュニティと関連して明らかにする目的である。コロナ禍の感染状況を見極めながら、調査を進めていこうと思っている。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により、予定されていた国外調査がキャンセルとなり、また国内調査も出来なかったので、旅費や人件費・謝金が多く余ることになった。今後もコロナの感染状況を踏まえて、改めて調査計画を立てて、研究を進めて行きたい。
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