研究課題/領域番号 |
19K02151
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研究機関 | 就実大学 |
研究代表者 |
中塚 朋子 就実大学, 人文科学部, 准教授 (50457131)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 薬害 / 薬害教育 / 副教材 / 相互行為 / 医療社会学 / 保因者 / 血友病 / ジェンダー |
研究実績の概要 |
本研究は、薬害HIV感染問題を経験した血友病コミュニティをフィールドとして、患者・家族・医療関係者などが取り組む、「遺伝」や「薬害」に関する教育・啓発活動について、質的調査法(文献調査、聞き取り調査、メディア分析)を用いた社会学的研究である。「遺伝性疾患」に対する人々の意識や考え、「薬害」に関する経験や歴史の共有・継承の方法を、血友病コミュニティで行われている教育・啓発活動の実践から考察することを目的としている。 2020年度は、共同研究で行ってきた血友病の保因者あるいはその可能性のある女性たちのインタビュー・データの検討を行い、ジェンダー論的な視点で考察した。まず、「2015年の全国ヘモフィリアフォーラムのインパクト」では、日本の血友病コミュニティに強い衝撃を与えたといわれる血友病医師や保因者の女性の講演を概説したうえで、「血友病患者」と「保因者」という言葉の定義や使用を知識社会学的な視点から論じた(中塚 2021a)。くわえて、血友病がX連鎖性の遺伝形式をもつ疾患であることから、「性差に関する知」の構成を考察するという視点を「ジェンダーとセックスの相克―『女性』への視座について」という小論で提示した(中塚 2021b)。「『血友病患者』と『保因者』という概念に対する女性たちの意味づけ」では、女性たちの語りから「血友病患者」と「保因者」という概念を分かつ遺伝学的な原理とは別に、自身の出血経験に対する認識や凝固因子活性値によって、「保因者」であることやその可能性を意味づけている様子を明らかにした(中塚 2021c)。 また、薬害被害者の思いを理念化し、実践されてきた「薬害教育」の取り組みを、公教育、生涯学習、専門職教育、卒後教育の実情を明らかにしつつ、薬害再発防止を目指す社会を構成する制度化の過程の検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
・新型コロナ感染拡大による影響で、フィールドワークや関連する資料館の見学、国内外の学会や会議の出張などを控える必要があったため。 ・新型コロナ感染拡大による影響で、オンライン授業の準備に通常より数倍もの時間を必要としたため。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、人々が、①「遺伝子疾患」をどのように意味づけ、自己や他者を理解するのか、②「薬害」の経験や歴史をどのように共有し、継承しようとするのかという、2つの学術的「問い」から研究課題に取り組んでいる。 ①血友病の重症患者の場合、幼少期から症状が発現する傾向にあるため、疾患についての知識や自己認識は、発達段階やライフイベントに応じて段階的に得ていることが、聞き取り調査で明らかになっている。医療関係者や患者会で配布されている数多くの教育資材は、患者教育を補助する役割を担っている。また、近年では保因者に対するケアや支援が高まるなか、保因者向けの教育資材が次々と登場している。本研究では、患者向け(幼年期・少年期・青年期を比較検討)や保因者向けの教育資材を分析し、「遺伝」に関する情報提供の特性を明らかにする。また、教育資材の活用について、医療関係者や製薬企業、患者・家族等への聞き取りデータを分析し、考察を進めていくこととする。 ②「薬害教育」の推進のために制作された小冊子の制作過程の分析を継続しつつ、薬害教育の一貫として制作される視聴覚教材の検討を進めていく。「薬害」に関する経験や歴史、そして「薬害」概念の運用の仕方について考察を行っていく。「薬害教育」の取り組みは、初等・中等教育、医療専門職を養成する高等教育、医療従事者や製薬企業・医療機器企業をはじめとする実務家を対象とした生涯教育、市民を対象とした社会教育や生涯学習において広がりをみせ、制度化されつつある。そうした取り組みの現状についても、全体像を把握し、その実情について明らかにする。このほか、「薬害研究資料館」の構想や取り組みの経過について、薬害教育検討会の議事録や資料をもとにして検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
・新型コロナ感染拡大による影響で、調査研究のための出張を控える必要があり、旅費などの支出が発生しなかったため、次年度に繰り越した。 ・調査資料の収集や文献等の購入や遠隔会議等に必要な物品の購入にあてる予定である。
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