本研究は、薬害HIV感染問題を経験した血友病コミュニティをフィールドとして、患者・家族・医療関係者などが取り組む、「遺伝」や「薬害」に関する教育・啓発活動について、質的調査法(文献調査、聞き取り調査、メディア分析)を用いた社会学的研究である。「遺伝性疾患」に対する人々の意識や考え、「薬害」に関する経験や歴史の共有・継承の方法を、血友病コミュニティで行われている教育・啓発活動の実践から考察することを目的としている。 2022年度は、日本保健医療社会学会において報告を行うとともに、共著『薬害とはなにか――新しい薬害の社会学』(2023年,ミネルヴァ書房)に掲載する「薬害根絶への思いと薬害教育」(第10章)などの執筆に注力した。薬害教育は、薬害被害者や支援者の薬害根絶への思いによって実現し、現在、公教育や生涯学習、医療専門職を養成する高等教育において実施された。薬害を社会的分業が進展した社会の歪みとして生じた現象ととらえ、薬害の再発防止を目指した社会の連帯という薬害教育のねらいについて明らかにした。一方で、陣痛促進剤による被害の問題である陣痛促進剤薬害に関する研究に取り組んだ。被害者の手記とインタビュー・データを検討し、自らの被害を薬害と認識する過程について考察を行い、論考の執筆を進めた。薬害再発防止に向けた取り組みをたどると、薬害に関する教育・啓発活動の一端をとらえることができる。 また、血友病コミュニティにおけるフィールドワークを通して、血友病保因者に対する支援の実際やその意味づけ、血友病患者であり医療従事者でもある当事者たちの意味づけについて検討を行った。
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