本研究課題は、知的障害者が共同研究者として研究のプロセスに参画するインクルーシブリサーチを学術的な観点から検証することをとおして、インクルーシブアプローチという方法論を提示することを目指している。 本年度は、研究分担者(笠原千絵)と共に取り組んだリサーチ①「しょうらいのくらし調査」、知的障害者のライフストーリーをビジュアルナラティブの考え方に基づいて表現したリサーチ③「ライフストーリーをマンガで発信」、さらに研究協力者(松田美紀)が2019-2020年度に障害者福祉事業所において取り組んだリサーチ活動、これら3つの実践的な取り組みの検証を行った。 この検証のプロセスにおいてもインクルーシブリサーチの考え方を取り入れることとし、上述した3つの実践的な取り組みに参加した当事者と非当事者のそれぞれに対してグループインタビューを行った。 インタビューデータの考察をとおして、当事者と共に調査研究に取り組むプロセスにおいてどのような要素があればインクルーシブリサーチといえるのかを、海外の先行研究と照らし合わせながら検討した。また、インクルーシブリサーチの意義や実際に取り組む際の難しさ、また研究者の側が留意すべき点等についてインタビューデータから分析・考察した。これらの検討・考察の結果を、当事者向けおよび支援者向けの2種類のパンフレットにまとめた。 英語圏で拡がりを見せるインクルーシブリサーチは、日本ではまだ積み重ねが乏しいことから、日本の障害者をとりまく状況に合った展開を考えていく必要がある。日本におけるインクルーシブリサーチの試みに参加した当事者の言葉をとおして、インクルーシブリサーチがもたらすポジティブな効果だけでなく、研究倫理に関わる事柄を含むいくつかの留意点についても示したことに本研究の意義がある。
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