研究課題/領域番号 |
19K02161
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
児島 亜紀子 大阪府立大学, 人間社会システム科学研究科, 教授 (40298401)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 反抑圧実践 / 女性支援 / フェミニズム / ジェンダー |
研究実績の概要 |
昨年度は、反抑圧ソーシャルワーク実践に関する英国・カナダ・オーストラリア等の文献から、当該実践の系譜、理論的背景、各論者たちの所説の特徴について検討した。と同時に、反抑圧ソーシャルワーク実践が、モダンな批判理論をベースとし、かつ積極的に交差概念を用いることから、しばしばクイア理論やポスト構築主義の論者によって「利用者のカテゴリー化に繋がる」「利用者をステレオタイプ化することに与する」といった批判がなされがちであることに着目し、かかる批判の妥当性について検証した。その結果、反抑圧実践において交差性を重視することは、ステレオタイプ化を助長するものではなく、利用者の多彩な経験と、利用者が被る複雑な差別・抑圧との関係を焙り出すのに適切な方法であることが明らかになった。 また、昨年度は反抑圧実践においても重要な概念である、利用者の「尊厳」について、ソーシャルワークがこれまで当該概念とどのように向き合ってきたのか、シンポジウムで発表する機会を与えられた。当該シンポで、ソーシャルワークは尊厳がいったい何に由来するのかを突き詰めるのではなく、ワーカーの批判的省察を活用して尊厳概念を絶えず「具体的なものとして」実践の中核に据えてきたことを論じた。実は、批判的省察の活用は、反抑圧ソーシャルワーク実践の要ともいえる機能であり、このことからも、当該実践が差別や抑圧からの解放を通して、人間の尊厳の回復をめざすものであることが浮かび上がってくるといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
反抑圧ソーシャルワーク実践に関する英国・カナダ・オーストラリア等の文献から、当該実践の系譜、理論的背景、各論者たちの所説の特徴について検討した。また、反抑圧ソーシャルワーク実践が、モダンな批判理論をベースとしており、かつ積極的に交差概念を用いていることの意義を検討した。それというのも、しばしばクイア理論やポスト構築主義の論者によって、交差概念の活用が「利用者のカテゴリー化に繋がる」とか、「利用者をステレオタイプ化することに与する」とされるためである。かかる批判の妥当性について検証した結果、反抑圧実践において交差性を重視することは、ステレオタイプ化を助長するものではなく、利用者の多彩な経験と、利用者が被る複雑な差別・抑圧との関係を焙り出すのに適切な方法であることが明らかになった。こうしたことから、研究はおおむね順調に進捗していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
反抑圧ソーシャルワーク実践に関する英国・カナダ・オーストラリア等の文献をさらに読み込み、現在に至るまでの争点の推移と論争の状況などを、時代背景やソーシャルワークをめぐる支配的言説の変化に配慮しつつ分析する。反抑圧実践の理論的な枠組みや制度へのアプローチを明確化させたところで、わが国の婦人相談所、婦人保護施設を中心とする女性支援現場の制度上の問題点を文献研究とヒアリングによって浮かび上がらせる。個別には、たとえば軽度知的障害女性のセクシュアリティ問題に、わが国の女性支援がどうかかわってきたか・いるのかを見ることで、交差概念の利用状況を見て取ることができるものと考える。
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