本研究の目的は、DVや性暴力など、ジェンダーに関連する諸困難を抱えた女性たちのエンパワメントとアドボカシーを推進すべく、わが国の女性支援現場に反抑圧実践 (anti-oppressive social work practice)を導入し、展開していくための理論的な足場づくりを行うことである。具体的には、反抑圧実践(以下、英語の頭文字を取ってAOPと略す)を構成する複数の理論について、その出自や系譜に留意しつつ整理を行い、もってAOPの認識枠組みと理論的・実践的課題および争点を吟味し、このアプローチが女性支援に適合的であることを示すことである。しかるのちに、わが国の女性支援においてAOPを導入する場合に勘案すべき課題が何であるかを、組織・機関へのヒアリングと支援者への個別インタビュー調査によって明らかにする。昨年度は、3カ所の婦人保護施設において、5名の支援員から女性支援の現状と課題を聞き取りながら、AOPの展開に必要な組織的・人的素地がどの程度構築されているのか、あるいは構築可能であるのかについて検討した。AOPの要諦である社会変革にむけての意識は、ほぼ全員の支援者が(程度の差こそあれ)持っていたものの、組織的な制約から具体的なアクションを起こすのが難しいと考えている者が多いことがうかがえた。一方で、AOPのもうひとつの大きな柱である批判的省察に関しては、インタビューに応じてくれた支援者全員が自覚的に行っており、日本の女性支援におけるAOP導入がこの点においては十分に可能ではないかという手応えを得た。
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