• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2023 年度 実施状況報告書

ドイツ求職者基礎保障(社会法典Ⅱ)における社会参加支援の展開の検証

研究課題

研究課題/領域番号 19K02169
研究機関法政大学

研究代表者

布川 日佐史  法政大学, 現代福祉学部, 教授 (70208924)

研究期間 (年度) 2019-04-01 – 2025-03-31
キーワード市民手当 / 制裁 / 生計保障基準 / 協力義務 / 協力計画 / 包括的世話 / 子ども基礎保障
研究実績の概要

2023年11月にドイツ調査を行い、市民手当がもたらした制度上の変化を確認し、それが現場に定着するかインタビューを行ってきた。
制度上の変化の第一は、基準額の年次改定の方式が変更され、給付額が大幅に引き上げられたことである。毎年の基準額改定は、「財・サービスの物価指数と実質賃金指数」の混合変化率が用いられてきた。市民手当への改編に伴い、直近のインフレに対応するため、新たに第二段階として「補充変化率」をさだめた。これにより2年間で基準額は大幅に引き上げられた。こうした年次改定の新たな算定手法について詳細を確認し、それへの評価を明らかにした。
第二に、市民手当は、受給者を怠け者とみなして制裁・給付削減をするのではなく、受給者を信頼し、支援を充実させる方向へ転換した。受給者に対する制裁・給付削減件数は、2019年の連邦憲法裁判所違憲判決以降、激減した。市民手当は、こうした流れを制度として定着させた。給付削減の水準は、基準需要額の30%削減を限度とした。義務違反で給付額削減となるのは受給者の生活実態にもとづく過酷性の個別検討を経ることになった。また、受給者が意思表示をすれば、給付削減は撤回される。受給者にとって、制裁・給付削減で脅かされる度合いは大きく軽減した。
変化が現場に定着するか。市民手当は、信頼ベースの制度へ転換するために、従来の参入協定に代わって、信頼と協力のパートナーシップに重点を置いた「協力計画」を導入した。また、「包括的世話」の体制を創設し、ジョブセンターとのコミュニケーションに問題があったり、給付削減につながりかねない受給者を、家庭訪問で支える支援を開始した。インタビューを通じて、ジョブセンターがアウトリーチ(家庭訪問)支援に取り組み始めていることを知ることができた。他方で、協力計画の策定が、形式的に進められていることも知ることができた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

コロナ禍によって実現できなくなっていた現地調査を、2023年11月に行うことができた。ジョブセンター職員へのインタビュー、ミュンダー教授やベッツェルト教授など研究者のインタビューをつうじて、市民手当がもたらした制度上の変化を確認し、現場でどう受け止められているかを明らかにすることができた。また、市民手当導入の背景として、労働力不足のドイツにおいて、長期失業者の「コア」が解消できない状況、職業訓練を修了できていない若者の問題が解決できない状況に対しては、制裁で威嚇するのではなく、自発性を尊重し、オーダーメードの包括的支援を行う方向に制度を転換させなければならないという共通認識があったことを確認できた。
なお、11月調査においては、「子ども基礎保障」法案をめぐる動向についても、重点的にインタビューを行った。推進する諸団体や政党関係者からと、逆の批判的立場の意見とを聞き、実施するうえで制度間の調整が困難になっている状況を整理することができた。保守・右派による難民排斥キャンペーンの影響を受け、法案審議の先が見通せない状況に陥っていることもかいま見ることができた。
こうした政治状況に振り回されるのではなく、あらためて、これまでの子ども関連諸給付(児童手当Kindergeld、児童加算手当Kinderzuschlag、養育費立替払いUnterhaltsvorschuss、教育参加給付 BuT)と税法上の課税最低限について、それぞれの現状と改善課題を検討する必要性を痛感した。

今後の研究の推進方策

2024年6月にドイツ調査を行い、市民手当による信頼ベースの3施策(「協力計画」、「調停メカニズム」、「包括的支援」)が、どのように実践されているのか、ジョブセンター現場担当者へのインタビューと、連邦労働社会省政策担当官へのインタビューを行う。また、2024年1月に急遽法制化された「就労を意図的に繰り返し拒否するものに対する100%給付削減」(受給要件の取り消し)がどのように実施され、どのような影響を持つのかも、あわせてインタビューする。
子ども基礎保障に関しては、児童加算手当と養育費立替払いの二つの制度に重点を置いて、福祉団体へのインタビューを行う。
このインタビューで得た知見と、その後の文献研究をもとに、学会報告を行い、研究全体をまとめ、研究成果を報告する。

次年度使用額が生じた理由

コロナ禍によりドイツ現地調査の実施が、順延されてきたため次年度使用額が生じた。
2024年6月にドイツ調査を行い、インタビューを行う。これによって当該金額の大方を使用する計画である。

  • 研究成果

    (2件)

すべて 2024

すべて 雑誌論文 (2件) (うちオープンアクセス 1件)

  • [雑誌論文] ドイツ「障害者の参加に関する調査最終報告」(2022)の検討2024

    • 著者名/発表者名
      布川日佐史
    • 雑誌名

      現代福祉研究

      巻: 24 ページ: 107,131

    • オープンアクセス
  • [雑誌論文] コロナ禍における生活困窮者支援制度と生活保護2024

    • 著者名/発表者名
      布川日佐史
    • 雑誌名

      日本労働年鑑

      巻: 93 ページ: 42,82

URL: 

公開日: 2024-12-25  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi