研究課題/領域番号 |
19K02182
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
伊丹 謙太郎 法政大学, 公共政策研究科, 教授 (30513098)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 協同組合 / 非営利セクター / 社会的連帯経済 / 組織間連携 |
研究実績の概要 |
本研究は、協同組合を中心とする非営利組織間の事業パートナーシップが新たな社会課題・地域課題を解決するに資する視点を歴史的パースペクティブの下で検討するものである。当初の研究計画は、日本国内の戦前戦後を通した協同組合運動史に力点を置くものであったが、この間の研究推進により、主軸を「社会的連帯経済」という新しい潮流に求める方向へと変化してきている。本研究の軸となる社会的連帯経済の視座は、国際的な非営利セクターの動向を大きく協同組合を典型とする社会的経済と、より小規模でインフォーマルな特徴をもつ連帯経済とに区分し、市場融和的かつ公式組織性の強い前者と非市場的/市場対抗的かつ小規模・非公式性の強い後者との連携を模索するものである。 連帯経済の特徴とされる地域における小規模かつ自律的経済圏という構想は、わが国の歴史的系譜において、(市街地購買組合など)大正期以降に生まれた新しい協同組合組織に源流を辿れる。「事業と運動が両輪である」と自称する協同組合では、経済事業としての安定性や市場での生存可能性というリアルな認識と社会変革を希求する運動性(理想)とのバランスの下、時代によってその姿を変貌させてきた。特に、戦後の生協運動は、消費者運動との連携の下でつねに市民社会の担い手であり続けながら、単位協同組合ベースでも組合員総数や事業規模を拡大させてきている。 こうした歴史的経緯ゆえ、生協組織は、経済事業と組合員活動が「統合された目的」の下、いかに機能し得るかを試金石とする。本研究を推進するなかで明らかになってきたのは、現在のわが国における協同組合の抱える課題と国際的な「社会的連帯経済」の潮流とが明白に問題関心を共有している点であり、この間の国内事例調査や海外との研究交流を通じ、今後の協同組合の転換を意識した政策的インプリケーションを具体的・実践的に備えた最終成果の提出に向けて研究を進捗させている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画は2019年度より4年間での研究課題であったが、コロナ禍による大幅な研究計画の変更が迫られた。一方で、このコロナ禍は情報基盤を活用したオンラインでの国際研究交流を盛んにさせるものであり、研究推進における新たな方向性を拓くものでもあった。研究実績の概要で示した「社会的連帯経済」という軸については、非営利組織間連携における重要な視座であると計画当初より考えてはいたが、2020年度よりZOOMを利用して南欧/中南米諸国の研究者と積極的に交流を図る機会が大幅に増えたことで、国内の史資料および事例収集という当初の制約を離れることにつながった。2020および2021年度は国内事例ですら直接現地に足を運ぶことが困難であった一方で、遠隔地にある実践者・研究者へのオンラインでのヒアリングの進捗は大きかった(2021年度には、コロナ以前には活用しなかった層へもオンラインヒアリングが浸透した)。 コロナ禍による外挿的原因による研究計画の大幅な変更は、本研究課題のテーマを推進する上での方法論や対象範囲にも及ぶものであったが、協同組合を中心とした非営利組織事業パートナーシップの展望と課題を検討する上での新機軸を確固とすることができたと同時に、2021年度後半からとりわけ2022年度には国内外の研究者との間で共同研究を進める環境が整備され、定期的な研究交流も軌道に乗りつつある。 現在の進捗状況としては、協同組合とNGO・NPOなどの非営利セクターとの連携、さらに行政や企業、国際社会(および国際機関)との連携など、広く協同組合の置かれた世界の見取り図を意識しながら本研究課題を推進していく枠組みが確立できたことで、軌道修正を経て当初計画以上の成果に結びつく研究になってきていると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策としては、社会的連帯経済を軸にした非営利組織事業連携の研究を展開し、市民社会セクター全体における協同組合の位置や役割など、国内の現状と海外事例などを踏また検討を進めていく。とくに中間成果にあたる国内先進12事例をまとめたILO報告書(拙著、2022年1月刊)の後継となる研究を最終成果として刊行できるよう計画している。 最終年度の推進計画は、以下の点を意識したものとなる。1)本研究課題採択期間中に新たに進展した南欧および中南米の研究者・実践者との交流を反映させながら国内事例の理解・解釈をブラッシュアップさせる。2)新たに、東アジア圏での研究交流を深める中で、同地域の特徴とわが国の協同組合/市民社会セクターの特徴との間の共通性と相違点にさらに踏み込んだ議論ができるよう努める。3)わが国における協同組合を中心とする非営利組織間の連携・パートナーシップについての視座をより広くSDGsの国際動向や2023年に4月に国連総会で採択された社会的連帯経済推進決議に重ねつつ検討を進める。 具体的には、特に2)に関連して本年度の折返し地点で東アジアの研究者間を結ぶオンラインシンポジウムを開催し、研究期間の前半でとりまとめた日本における非営利組織連携の新しい動きについて報告と、それに対する外部からの批判的意見を受けとめつつ、最終成果を纏める計画である。 なお、東アジア圏における非営利組織間連携の比較研究は、本研究課題に後続する研究課題であると自覚している。非営利組織や市民社会における組織間パートナーシップの構築の検討は、代表者にとって長期的に取り組むべき研究テーマであり、本研究課題はその基盤づくりのフェイズとしても位置づけられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究期間を1年延長したこと、および研究アプローチに変更を加えたことにより、次年度使用額が生じている。本研究課題の推進にあたり、コロナ禍で大幅な計画変更を迫られた。とりわけ、移動に制限が加わることで、現地での事例調査はもちろん、史資料収集における移動にも困難を生み、研究アプローチ自体に大きな修正が迫られることになった。本来4年間の計画であったが、2020年度および2021年度前半は、計画変更の方針を模索する期間となり、一部の予算執行を後倒しすることになった。また、期間延長により新しく加わった最終年度の新計画では、東アジア圏のオンラインシンポジウム等の開催を予定しているほか、海外渡航の情勢次第で可能なら当初計画の国外調査も一部実施する。これらに要する旅費、同時通訳や文字起こしなどのシンポジウム開催関連経費とともに、最終成果に向けた取りまとめや整理に要する経費として適切と思われる使用額を次年度に残すことになった。
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備考 |
工藤律子(ジャーナリスト)との対談
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