本年度は、ボランティア従事者の参加意識とソーシャルキャピタルの関係を明らかにするため、公共交通のボランティア従事者を対象にアンケート調査を行う予定であった。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、分析対象地域のボランティアが減少し適正サンプル数を確保することが困難となった。このことから、本年度においては青森県佐井村全世帯(722世帯)に対しアンケートを試み、対数線形ロジットモデルと生存分析モデルを利用し、ボランティア交通の存在とボランティア奉仕にかかる経済価値と価値構成について評価を行った。さらに、これらの経済価値に対しソーシャルキャピタルをはじめとする属性変数がもたらす影響についても分析を行い、経済価値と奉仕意思にこれらの要素がどのような効果をもたらしているのかに関し検証した。 このほか、本年度はソーシャルキャピタルの貨幣価値の計測にかかる調査研究にも取り組み、与論空港(鹿児島県)と対馬空港(長崎県)の利用者を対象にアンケートを試行した。そして、公共交通がどの程度のソーシャルキャピタルを醸成するかについて佐井村調査と同様の2つのモデルを用い、その定量的な把握と構成要因にかかる分析を試みた。 分析の結果、佐井村調査では1か月あたり500~1000円の支払意思と2~4日の支払労働意思量が算出され、両者ともオプション価値にかかわる要素が最も高い構成割合を占めていた。また、これらの支払意思や支払労働意思量に影響を与える要素はソーシャルキャピタル、居住地、ボランティア交通の認知度であることがわかった。一方、与論空港と対馬空港利用者に対する調査では、航空サービス1便あたり460~830円に上るソーシャルキャピタル要素の貨幣価値が導出され、島外来訪者と人々との付き合い・交流因子(Bonding/Bridging両方含む)が高い被験者ほど高い価値を見出していることが明らかになった。
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