研究課題/領域番号 |
19K02194
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
竹原 幸太 東京都立大学, 人文科学研究科, 准教授 (30550876)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | GGI / PPC / 集団処遇 / 司法福祉 |
研究実績の概要 |
本年度は、1960年代後半から70年代までの矯正教育研究会『矯正教育研究』誌の所収論文を素材として、集団を活用した矯正指導法が焦点化された中で、少年矯正と教育学理論がいかに結びついていたかを検討した。 具体的には、1970年代には集団を活用した指導法として、生活綴方や集団主義教育を理論的背景とする自治集会とGGI(Guided Group Interaction)・PPC(Positive Peer Culture)に基づく批判集会が焦点化され、前者を担った副島和穂、土持三郎らは「矯正教育」という用語を、後者を担った菊池正彦らは「矯正処遇」という用語を使用していたことを確認した。さらに、「矯正教育」と「矯正処遇」という用語の混在は、『矯正のための処遇技術』(1980)、『日本の矯正と保護2巻-少年編』(1981)、『矯正教育概論』(1981)、『矯正教育学入門』(1981)等、1980年代の矯正実務研究書でも確認され、1977年矯正局長依命通達「少年院の運営について」以降、矯正界全体で、矯正の科学化と学際的アプローチが求められ、少年矯正と教育学理論を結ぶ「矯正教育」論が一時、後退したとの仮説的検討を行った。関連して、1970年代後半からの戦後第三の非行の波の時期に、少年司法・矯正と教育学理論を結ぶ動きとして、家裁調査官らの司法福祉研究運動が浮上したことを確認した。 以上については、「矯正教育は教育学研究の対象たり得るか?-「矯正教育」・「矯正処遇」言説混在の実践史的解読」と題して、早稲田大学文学学術院教育学会夏季研究発表会で報告を行い、矯正教育史上の司法福祉研究運動の意義については、社会事業史学会50周年記念論文集『戦後 社会福祉の歴史研究とその方法-継承・展開・創造』に投稿を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス感染症拡大・長期化に伴い、施設所蔵の資料調査に加え、矯正図書館等も利用制限が生じたため、史資料調査は計画通りには進まなかった。 しかしながら、既に収集した史資料を活用し、戦後矯正史においては、教育を超えて心理・医療的アプローチとの「統合」を目指す「学際性」が求められ、1980年代以降、「矯正教育」、「矯正処遇」との用語の混在が浮上し、こうした事情が少年矯正と教育学理論の結びつきの希薄化の一因となったとの仮説的検討を行うことができた。併せて、白石図書館「鈴木道太文庫」において、児童福祉司として生活綴方的手法を駆使して非行児調査を行った鈴木が、一般に向け、非行を予防する上での家庭教育・しつけ論を説いたカセットテープ(「子どもはなぜいうことをきかないか」『家の光カセット』1972、「思いやりを育てるしつけ」『家の光カセット』1976、「子どものほめ方叱り方」総理府『政府の窓』1979)をデジタル化することができた。
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今後の研究の推進方策 |
1922年少年法・矯正院法制定から、少年法制100周年の節目となる本年度は、昨年度までの研究成果に加え、中断していた一次資料調査を実施し、改めて、戦前・戦後の矯正教育の連続性・非連続性を整理しつつ、今日の少年法改正の動きと関連させ、少年矯正の原理を検討する。 第一に、戦後少年法・少年院法下の矯正教育の構造転換を整理しながら、矯正教育研究会『矯正教育研究』誌と矯正実務研究書を分析対象として、1990年代以降の「矯正教育」と「矯正処遇」の用語の混在の帰結を検討する。 第二に、少年法改正が進む今日、少年司法諸機関と民間教育・福祉団体を結び、領域横断的に展開された、司法福祉研究運動の現代的意義について検討する。 以上を通じて、少年法制100周年を迎える今、戦前から連続・継承すべき矯正教育の原理とは何かを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症拡大の長期化に伴い、予定していた施設所蔵資料の調査等が実施できなかったため、コロナウイルスの感染収束状況に応じて、出張調査費として使用予定である。
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