本年度は、1922年少年法・矯正院法制定から数えて、少年法制100周年の節目であった点も加味し、通史的観点から少年矯正の原理について検討した。 第一に、新型コロナウイルス感染症の拡大で中断していた資料調査を再開し、1977年矯正局長依命通達「少年院の運営について」以降、矯正実務書では「矯正教育」と「矯正処遇」という用語が混在し、2000年代に入ると再び「矯正教育」という用語が使用され始めた点を確認した。その上で、「教育」か「処遇」かの使い分けには、矯正対象の人間観・子ども観の違いが反映されている点を明らかにした。 第二に、教育福祉の見地から、2022年4月に成年年齢が18歳へと引き下げられたのと同時に、18・19歳の少年を「特定少年」と位置づけた2021年改正少年法が施行された動きについて検討した。具体的には、新成年に付与された「権利」と表裏一体をなす形で「責任」も求められており、教育・福祉・司法等が交錯する「複合領域」に位置づく少年司法実践では、領域を貫く成長発達支援の視点を欠いた場合、その位置づけが揺らぎ、時の世論により「刑事司法化」に舵が切られ得る「不安定性」を有している点を明らかにした。 以上の研究成果については、日本社会教育学会第69回大会自由報告にて「少年法改正問題と教育福祉研究-立ち直り支援と甦育」と題して報告を行いつつ、単著『立ち直り・甦りの教育福祉学-少年司法の軌跡と甦育』をまとめ、成長発達過程で、つまずき、失敗してしまった、子どもの立ち直り・更生(甦り)を支える領域横断的な概念を設定する必要性を指摘し、それを「甦育」として位置づける意義について検討した。併せて、「子ども法制における少年法改正問題-教育福祉研究と甦育論」と題する原稿を『融合分野としての少年法(服部朗先生古稀祝賀論文集)』(2023年刊行予定)に寄稿した。
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