研究課題/領域番号 |
19K02202
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研究機関 | 桃山学院大学 |
研究代表者 |
栄 セツコ 桃山学院大学, 社会学部, 教授 (40319596)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 精神障害者 / 福祉教育 / 病いの語り / ヒューマンライブラリー / ロジックモデル / エンパワメント / ストレングス / 共生社会 |
研究実績の概要 |
【研究目的】今年度は研究期間(4か年)の2年目にあたり、本研究の目的は「精神障害当事者の語りを生かした福祉教育プログラム」の効果的な要素の抽出とロジックモデルの提示、及び多様な語りの方法について明らかにすることである。 【研究方法】「精神障害当事者の語りを生かした福祉教育」を実施している母体の異なる機関・団体にフィールドワークを実施するとともに、多様な語りの方法の可能性を明らかにするためにヒューマンライブラリー・プロジェクトを企画し協力大学で実施する。 【結果と考察】結果として、以下の3点が明らかになった。1.「精神障害当事者の語りを生かした福祉教育プログラム」の効果的な要素として、①チーム形成(地域ネットワークの構成メンバー・目的の明確化・当事者の語りへの敬意・事務局・啓発用パンフレット・活動費・定例的会議の実施)、②福祉教育プログラム(コンテンツ・プログラム・教材・語り部の養成と育成)、③普及システム(地域のネットワークへの参加・教育機関の情報収集)が抽出された。2.5機関・団体の効果的な要素をもとに時系列の目標を示すロジックモデル(最終的目標・長期的効果・即応的成果・結果・活動・投入)を作成した。3.ヒューマンライブラリー・プロジェクトとは、精神障害当事者が「本」となり、大学生は「読者」として当事者と対話を重ねる取り組みである。コロナ禍のなかリモートを使用しての対話だったが学生は自らの精神障害者に対する偏見が溶けていく感覚を体験し、対話を通して自らのメンタルヘルスのあり様や抑圧的な社会構造への気づきが見られた。その学生の意識変容を体感することで、当事者自身が語りの効力感を抱いていた。 【今後の課題】今年度は社会に向けた語りの実践を俯瞰的・仰視的な観点から取り組むことができた。今後、これらの知見を発展させ、福祉教育プログラムの評価項目についてブラッシュアップする予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究の主たるテーマは「精神障害当事者の語りを生かした福祉教育」であり、教育機関において、精神障害当事者が自らの病いを児童・生徒・学生に語るという実践の有用性を探究するものである。しかし、昨年度に引き続き、新型コロナウィルス感染症の拡大により、教育機関にアウトリーチすることそのものが困難な状況であり、緊急事態宣言の発令後、フィールドワークすらできない状況だった。このような状況下で、当初予定していた福祉教育プログラムの評価に関して遅れがみられている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の語りの実践が主に大阪府内下をフィールドとしていることから、短期間における新型コロナウィルス感染症の収束が困難なことが推測される。そこで、次年度はフィールドワークが困難な状況を考慮し、語りの教材として当事者の語りをDVDや冊子で作製すること、ヒューマンライブラリー・プロジェクトをリモートで実施することによって、その可能性や効果を検証する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、新型コロナウィルス感染症に係る2点の事由による。ひとつは、本年度はヒューマンライブラリーの実践が精神障害当事者のリカバリーに貢献する関連要因を検証するためにその発祥地であるデンマークに視察予定だったが渡航そのものが困難な状況だった。第二は成果報告をする予定だった日本精神障害者リハビリテーション学会が開催されなかったことや、情報収集に計上していた学会等がリモートで行われたことがある。以上のことから、計上していた渡航費・交通費等が次年度使用額となった。次年度も海外の視察や日本におけるフィールドワークが困難になることが推測できることから、教材の制作費(DVDや冊子)と当事者の語りの生成過程に影響する要因を明確にする研究目的から当事者への謝金やインタビューの文字起こしにあてる予定である。
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備考 |
・『精神障害当事者の語りを生かした福祉教育プログラムモデル開発に関する評価研究』 成果報告書 ・冊子:寝台列車峠編『私の物語 あなたの物語 ヒューマンライブラリー 病いの語りから学ぶ』
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