研究課題/領域番号 |
19K02204
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
市瀬 晶子 関西学院大学, 人間福祉学部, 准教授 (50632361)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | エンド・オブ・ライフケア / ケアの文化 / 積み重ねられたモデル / ケアの共有システム |
研究実績の概要 |
本研究は、認知症と共に生きていくことを、ある種の文化を学び作り出していくことと捉え、認知症と共に生きていくための文化(人々の間で共有されている意味のシステム)を明らかにし、エンド・オブ・ライフケアを構築していくことを目的としている。2021年度は、2019年11月から2021年1月にかけて日本国内の認知症の人のグループホームで行なった関与観察のデータをSpradley(1980)に従って分析し、「地域の中で普通に生活する」「認知症と共に生きる」「最後と共に生きる」という文化的意味の領域が見出された。この中で「最後と共に生きる」文化がどのように組織されているのか、関与観察期間中に看取りが行われた事例から暫定的な構造が見出された。グループホームでのエンド・オブ・ライフケアは入居の時点からすでに始まり、本人の生活の仕方や選好の理解、家族とのコミュニケーションが積み重ねられ、状態の変化をアセスメントしながら、医師、家族との話し合い、変化に応じたケアの変更が行われていた。このことから、グループホームでのエンド・オブ・ライフケアは、疾患のターミナル段階を診断し、治療をケアに切り替える医療モデルとは異なって、“積み重ねられた”モデルであることが明らかになった。また、人生の最終段階では「食べない」=「生きることを諦める」とみなす家族と、無理に食べさせることは本人にとってかえって負担になるとみるスタッフの認識の間に相違があり、そのことがケアの難しさとなっていた。このことから、家族とスタッフの認識は異なることを前提とした上で、個々の入居者ごとに、家族とスタッフが共有できるケアのシステムをどう作り上げていくかが課題であることが示唆された。こうした分析結果を調査先のグループホームのスタッフに共有し、フィードバックを得た。また、2022年3月にはスウェーデンの高齢者ケアホームでの調査を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
交付申請書では、2020年度にスウェーデンの高齢者ケアホームにおいて一年間の関与観察調査、本人、家族、スタッフへのインタビュー調査、また自治体の保健医療福祉関係者にインタビュー調査を行う計画だった。しかし、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により、調査の開始を3度延期せざるを得なくなり、調査期間も一年から半年への短縮を余儀なくされた。 しかし、2022年3月より、スウェーデンの高齢者ケアホームで関与観察を開始することができた。現在は高齢者のケアホームでの関与観察を行うと共に、入居者、スタッフへのインタビューを始めている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、引き続き高齢者ケアホームでの関与観察、入居者、スタッフへのインタビューを行なっていくとともに、高齢者ケアホームに親が入居している成人の子どもたち(家族)へのインタビューを計画している。また、調査先のケアホームが位置している自治体の保健医療福祉関係者にインタビューを行い、ケアホームの文化を作り出している高齢者ケアのシステムを明らかにしていく予定である。 2022年度はデータの収集が主な課題となるが、データの収集と共に、交付申請書での当初の計画であった分析と結果の執筆も進めていきたい。感染拡大のため調査の開始を2年延期せざるを得なかったことに伴い、分析と学会での報告、論文執筆の期間も延期になっており、研究期間の延長を申請したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
交付申請書では2020年度にスウェーデンでの調査を行う計画だったが、新型コロナウイルスの世界的感染拡大のため渡航ができず、2021年度も旅費、調査協力者への謝金、その他の項目に計上したインタビューの文字起こし委託費や翻訳料の支出がなかった。2022年3月よりスウェーデンでの調査を開始することができたため、旅費、調査協力者への謝金、インタビューの文字起こし委託費などに使用する予定にしている。
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