研究課題/領域番号 |
19K02207
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研究機関 | 北星学園大学短期大学部 |
研究代表者 |
藤原 里佐 北星学園大学短期大学部, 短期大学部, 教授 (80341684)
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研究分担者 |
鈴木 勉 佛教大学, 社会福祉学部, 名誉教授 (20162969)
田中 智子 佛教大学, 社会福祉学部, 教授 (60413415)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ケア / 高齢期 / 親役割 / 障害者の加齢 / 家族役割 / 離家 |
研究実績の概要 |
これまで実施した、障害者家族へのインタビューデータを分析し、高齢期の親が抱く不安とその緩和のための方策を検討することができた。在宅生活を継続してきた障害者家族にとって、成人障害者となった「子ども」の暮らしの場をどこに移行するのかが、大きな課題となっている。母親らの情報収集や、子どもの体験的入所を経て、また、居室等の空き状態というタイミングを踏まえて、施設やグループホームへの入所を決定するプロセスがある。ともすれば、子どもの「離家」が、親役割のゴールのように捉えられるが、高齢の親が、一生という単位で、子どもに関わる必要が発生していることが分かった。 その一つは、子どもが家族メンバーであることを保障する役割である。在宅から離れた後も、帰省、面会などを通して、親族との交流を維持するために、また、それが子どものQOLにもつながるという判断から、帰省や面会の継続を家族が担っている。二つ目は、障害症状や疾患の治療、通院/入院に関わる、判断とケアである。障害をもつ子どもが加齢し、体調の変化や、起因疾患の進行などがある場合に、どこで医療を受け、治療方法や手術の有無をどう選択するのか、家族の判断が求められていた。三つめは、障害を持つ子どもの加齢に際し、社会生活のありかたをどう位置付けるかという面での支援である。老化の症状が早期に表れる知的障害者の加齢に対し、作業所への通所、日中活動、余暇活動の頻度、高齢者福祉サービスの利用などを検討、選択することが、家族機能に含まれる傾向があった。 親亡き後問題とは、家族がいなくなった後の子ども支援の不在という狭義の捉え方ではなく、親が健在中に、それまで担ってきた子どもへのケアが困難になることへの懸念であり、そこに重要な役割が残されているがゆえの葛藤であることに注視した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
入所施設での暮らしを選択した後の、家族の役割、施設職員の関りのバランスを、入所直後、入所生活の安定後、親の健康状態の不安定さによる変化などを経年的に考察する意義を見出していたが、コロナ禍の影響が強く残る中で、施設内でのインタビュー調査が未実施となった。障害当事者、家族、職員の各立場から、施設の暮らしにおける地域生活のあり方、家族、親族のメンバーであることの尊重のために、どのような支援が可能かを聞き取り調査することができなかったことにより、研究全体の進捗状態が遅延していることは否めない。 子どもの離家を比較的早くに実行し、入所後の暮らしを親が見守ることが、子どもの安全、安心につながるのか、在宅期間を長期化することで、地域生活や親族とのネットワークを盤石にし、その上での離家が子どものウエルビーイングに繋がるのか、この点を検証することが残されている。 また、障害者家族、とりわけ高齢の母親が、成人障害者のケアを担うことの身体的負担感や困難性を「ケア研究」の中で、どのように議論し、問題提起できるのか。昨今のケア論の隆盛は周知の通りであるが、そこに障害者家族の問題はどう位置付けられるのかを理論づけることが途上であり、「ケア論」と障害者家族の問題を双方からみていく必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
①重度重複障害、行動障害などの子どもを育ててきた親が、現行の障害者福祉制度、福祉サービスから疎外されてきた実態に基づき、在宅生活が長期化するプロセスを明らかにする。 ②在宅の知的障害者が親元から自立をする時期、要因、社会資源を分析し、その過程をパタン化することで、離家に伴う家族の葛藤や困難を可視化する。 ③障害当事者が親を看取る、支える、共にいるというような場面を「あたりまえの暮らし」と想定し、障害者福祉事業所が現在はインフォーマルに担っているサポートを、公的な支援として関与する方法、施策を探る。 これまでの調査を元に、①~③の課題を整理すると共に、入所施設でのヒアリングを通して、障害者を高齢の家族が支援している実態を詳らかにし、高齢期の親役割のありかたと、事業所との関係性を再考する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度に重度障害児者に対する入所型の「ケア」の実態を海外で視察することを計画していたが、コロナ感染のために延期となった。2022年度に、再度計画をしたが、渡航予定国、イギリスへの航路が、政治的な事情で大幅に変更になり、本科研グループの渡航要件では、時間的、費用的に実現ができなくなった。 延長期間である2023度には、これまでの研究成果を書籍として発表する費用及び、イギリスからの研究者を招いてのシンポジウムを企画しており、予算を必要とする。
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