本研究では、多様性・複雑性を特徴とする生活困難および支援ニーズに関して、A. 計量分析の基盤整備およびそれを支えるB. 理論的論点の整理という2つの方向から研究を進めている。2022年度においては、主に理論的論点を歴史的観点を加味して検討する研究が進められた。 多様性・複雑性を特徴とする生活困難は、決して現代においてのみみられるものではなく、いつの時代でも生活困難は、多様かつ複雑な様相を示すものと考えられる。そこで検討されるべきは、戦後日本における福祉国家の建設において、このような生活困難の側面が看過されてきた理由である。2022年度においては、この論点について、日本において、上記のような生活困難の側面に正面から対応する職種であるソーシャルワーカーの普及が1980年代末まで遅れたこととの関連において検討を加えてきた。その結果、①戦後日本における社会福祉が戦前における社会事業の延長線上に成立したこと、②方面委員制度を原型にもつ民生委員制度が戦後日本のソーシャルワークの基盤の形成に寄与しなかったこと、③生活保護制度におけるケースワーカーがソーシャルワーカーとして発展してゆくことがなかったこと、④地域福祉の担い手となることを期待された社会福祉協議会が、個別支援に関して十分なビジョンを持たなかったこと、⑤大学などの福祉職養成機関がソーシャルワーク教育を十分に実施してこなかったこと等が複合的に作用し、ソーシャルワークの発展に阻害的に作用したことを確認した。 2022年度においても、新型コロナウイルス流行のために、支援現場の混乱は続き、調査の実施等については一定の制約があったが、理論研究・歴史研究を優先的に進めることによって研究の遅滞を防ぐことができた。その結果、総じて2023年度における研究の取りまとめに向けて有効な基盤を構築することができた。
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