本研究はわが国の障害者雇用において、障害者雇用促進法に基づく法定雇用率制度は重要な役割を果たしている一方で、障害者総合支援法に基づく福祉分野の就労系サービス、特に就労継続支援事業等の福祉的就労の両者を有効に結び付ける必要があることを前提に、「みなし雇用」のあり方を明確化することを目的とした。具体的には、「みなし雇用」の制度化の可能性については明確なエビデンスに基づく検証に至っていないことから、「みなし雇用」について障害者法定雇用率の対象となる企業、福祉的就労事業所並びに対象となる障害者の意識等の観点から総合的に検証を行ない融合の可能性と課題を理論的に提示することを意図した。 まず、「みなし雇用」の検討の経過を踏まえ、今日的な概念について検討を進めた。国内外の障害者雇用・就労に関する先行文献、行政発表資料、国会答弁等における「みなし雇用」に関する協議過程等、多様な既存資料についての情報収集・整理と分析を行い、わが国における障害者雇用率制度の発展過程について「みなし雇用」に対する見解の変遷等の視点から検証を進めるとともに、障害者雇用率制度に依拠せず、雇用と福祉を統合する視点からの企業における就労状況の把握方法と、近年進展している「みなし」に準ずる形態とも言える障害者雇用の「外注」についても検討した。 「みなし雇用」に対する企業並びに障害者就労事業所の意識についての調査は、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、事前の訪問調査等も含めて実施には至らなかった。 しかしながら、障害当事者(団体)において、障害者の就労が「みなされる」ことについての意識や考え方に対する「当事者観」についてデータベース化を図った。最終的には「みなし雇用」についての理念的、実践的、政策的な性格付けについての枠組みを示すことができ、今後の障害者雇用と福祉的就労を統合する理論的枠組みの基盤を提示するに至った。
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