研究課題/領域番号 |
19K02214
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研究機関 | 桃山学院大学 |
研究代表者 |
小野 達也 桃山学院大学, 社会学部, 教授 (30320419)
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研究分担者 |
朝倉 美江 金城学院大学, 人間科学部, 教授 (00310269)
柴田 学 金城学院大学, 人間科学部, 准教授 (20580666)
石川 久仁子 大阪人間科学大学, 人間科学部, 准教授 (40411730)
岡野 聡子 奈良学園大学, 人間教育学部, 准教授 (50623964)
渡辺 晴子 広島国際大学, 医療福祉学部, 准教授 (90326091)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 幸福 / 増進型 / 地域福祉 |
研究実績の概要 |
本研究は、地域福祉の高い質を実現するための考察を行うものである。2000年以降、地域福祉は主流化したとされるが、現状では福祉が最低限度の保障とより高いレベルへの志向という二極に分かれてしまっている。この状況を超えて、一人ひとりがその人らしい生き方(幸福、well-being)を実現し、同時に地域社会の持続性(sustainability)を生み出していく具体的な研究が求められている。本研究はこれを「増進型地域福祉」と名付け、その理論、実践、支援のあり方を究明することを目指す。すなわち、定常化しつつある社会に対応する幸福志向の地域福祉のありかたについての実践理論研究である。そのために、本研究はコミュニティレベル(メゾレベル)に焦点を当て、①幸福を志向する地域福祉の理論研究、②事例や試行実践をもとにした実践研究、③増進型地域福祉の実践援助方法研究を行なう。 1年目である2019年度には、研究会の開催(4回-6月、8月、2月、3月)、現場調査(2月)、増進型ゼミナールの実施(3回-12月、1月、2月)、福祉専門職に対する調査(2回-3月)、試行実践として自治体への普及活動(アクションリサーチ)等に取り組むことができた。1年目の取り組みとして増進型地域福祉の、研究的開発、試行的実践、普及というそれぞれの面において、その基礎部分を構築することができた。特に研究会や現場調査だけでなく、ゼミナールの開催や福祉専門職の調査、また試行実践まで取り組めたことは実践研究のためには意義深いものがある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は研究の初年度であり、理論研究に関しては科研研究会を行うことで、増進型地域福祉に関連する理論を精査した。福祉領域(福祉文化)、心理学領域(ポジティブ心理学)、精神保健領域(オープンダイアローグ)、保健領域(地域づくり型保健活動)、社会保障領域(卓越の倫理学)などである。これにより増進型の理論的基礎の検討を進めることができた。 実践研究として、各分担者がそれぞれ対象とするフィールドでの研究を進めただけでなく、愛知県にある南医療生活協同組合について共同でのヒアリング調査を行った。同様に、増進型の実践を収集、共有、発信する場として「増進型福祉ゼミナール」を実施した。これは、事例報告とその検討を行うもので、2019年12月から取り組んだ。認知症の支援や地域での住民参加型の取り組み、福祉施設での増進型の事例を確認することができた。2020年2月まで3回行い、3月にも予定をしていたが、コロナウイルスの影響で中止となった。 アクションリサーチ的な性格の試行実践については、研究代表者が大阪のいくつかの自治体とのかかわりで進め始めている。中でも富田林市については、市の政策として「増進型地域福祉」を推進することを掲げ、行政組織改革を含めて取り組みをはじめている。具体的には、増進型地域福祉推進室を新設したほか、2020年度からは地域担当職員を配置することになっている。そのため、担当者との検討会を持ち、また市職員に対する研修を2020年1月から2月にかけて4回行った。これに先立ち社協職員への研修も実施した。 さらに、福祉専門職に対して、援助実践の現状についての調査を大阪で行った。福祉専門職が増進型地域福祉の援助に取り組むことができるようになるための基礎調査である。コミュニティソーシャルワーカーと地域包括支援センタースタッフ、それぞれに対してグループインタビューを実施した。
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今後の研究の推進方策 |
2年目となる2020年度は①増進型地域福祉に関する基礎理論の構築と共有を進める、②各研究者がそれぞれのフィールドでの増進型の研究をさらに進める、③増進型の事例、実践の収集、分析を進める、④試行実践の本格的な展開に取り組む、という点が柱となる。①に関しては1年目も取り組んできたが、十分とは言えない部分もあり、また、共有化についても研究会などでさら進める余地がある。②については、今後の分担研究の核となる部分であり、2年目から本格的に探究する。③については、1年目に続いて継続的に取り組む。④については、本格化する自治体レベルの事業に関するアクションとリサーチを実施する。 これらは、コロナウイルス問題(およびそれへの対応策)によって、様々な影響を受けることが予想される。例えば研究会やゼミナールなどの実施やフィールド調査、そして富田林市などを中心とする試行実践の進捗などへの影響はありうる。こうしたことにより、状況に応じて計画を変更すことを余儀なくされることが考えられる。ただし、理論的な検討やこれまで把握してきた実践の整理等を進めることはできる。また、研究会やゼミナールについてもオンラインを使った方法の構築を試みることも検討できる。こうした状況下で、どのように増進型地域福祉に取り組むことができるのかが理論的、実践的に問われることになる。2年目の方針の基本的な部分は押さえながら、かつ臨機応変に研究を進める。さらにその後3年目には、それまでの研究や試行実践を踏まえて、「増進型地域福祉」の理論、実践、支援のあり方について成果をまとめ、共有、普及を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度は、物品費が予定より少なく、旅費がオーバーしたが、この両者でほぼ相殺している。差額が出たのは主に人件費・謝金の部分である。これは、調査は行ったものの謝金が発生しなかったこと、また、資料整理等に要する人件費も発生しなかったことが主な要因である。次年度は、調査が本格化するとともに、資料も増加することもあり、そうした部分に今年度の差額をあてることになる。
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備考 |
小野達也・渡辺晴子・黒田研二・木下幹朗「保健・医療・福祉の現場を訪ねる-熊本市-」、『地域福祉研究』48巻、2020年
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