研究課題/領域番号 |
19K02225
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研究機関 | 武蔵野大学 |
研究代表者 |
野口 友紀子 武蔵野大学, 人間科学部, 教授 (20387418)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 社会事業史 / 社会事業 / 厚生事業 / 農村社会事業 / 都市社会事業 |
研究実績の概要 |
2020年度は、対抗する歴史を描くために三つのことに取り組んだ。第一に、都市と農村という対抗する言葉を使った社会事業が第二次世界大戦前から戦後の十数年の間にかけて話題となったことにかかわり、雑誌を使った分析を試みたことである。すでに農村社会事業については、分析を行なってきたが、今回は都市社会事業についての分析を行うことで、農村と都市との間の社会事業の捉え方の違いが明らかになると考えている。『社会事業』誌をすでに分析済みであり、分析から戦後の都市社会事業を地域住民の組織化を図るものとして位置付け、問題を地域で解決することが目指されていたこと、そしてこのことは、都市社会事業が戦後の社会福祉が公的な制度中心から地域住民による解決というあり方への転換であったことを示していると結論づけた。これは今年度に論文を発表している。 第二に、非常事態と通常時の社会事業の違いに関する分析である。社会事業・社会福祉は、歴史的には貧困への救済から始まっており、貧困問題への対策は救貧と呼ばれ、社会事業の観点からは貧困対策は通常の救済事業である。一方でここでいう非常事態とは、戦争、自然災害、騒擾、感染症拡大のような状況である。通常の救貧では対応できな非常事態という設定は、通常の社会事業に対抗するものではないだろうか。これについては構想段階であり、今後分析を進めていく予定である。 第三に、厚生事業と呼ばれる社会事業の戦時期の在り方の検討である。非常事態下での社会事業の一つである厚生事業を取り上げて検討することで、通常の社会事業とは異なる事業として人びとに捉えられる過程を分析できる。このことは社会事業が非常事態下では人口政策や保健政策などと結びつき、また新たなや役割を与えられて通常とは異なるものとして編成し直されることで、厚生事業となっていくことを明らかにできると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究が順調に進展している理由は、第一に文献資料を順調に収集できていることがある。都市社会事業については『社会事業』誌を中心に文献があり、容易に手にすることができた。第二にすでに農村社会事業に関する研究を進めていたことがある。農村社会事業を都市社会事業の対抗として位置づけているため、都市のことを書くにあたり農村との関係を見る必要があるが、農村社会事業については文献を収集済みで論文にもまとめていたことである。第三に都市については平成28年度に社会事業史学会で報告しており、報告内容をある程度まとめていたことがある。第四に厚生事業については令和元年の日本社会福祉学会で報告をしていて中心的な課題をつかめていたことが挙げられる。第三、第四については学会での報告資料をもとに論文として再構成し直しており、都市社会事業についてはすでに論文として発表でき、また厚生事業についても現在論文にする作業を行なっている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、第一に戦時の社会事業である「厚生事業」と呼ばれる事業が、戦時でない時の社会事業からどのように戦争とかかわりを持ち姿を変えていったのかを検討し、論文にまとめる。現在までの検討としては、厚生事業は戦時期には社会事業の発展的形態と捉えるか、社会政策的形態と捉えるかに2分されること、しかしいずれも「勤労者」を対象に含めその目的は、生産力増強であったことがわかっている。このことから、戦時期の社会事業関係者たちが従来の社会事業を変形させ戦争という状況に社会事業を適応させて存続を図ろうとしていたのではないかと考えている。 第二に、通常の社会事業と非常事態での社会事業という軸を生かして、対抗の歴史として社会事業を描き出すことを検討している。現在までの検討から見えてきた課題として2点ある。一つには非常時の設定に関することである。戦争、自然災害、騒擾、感染症拡大を非常事態と考えているが、そのほかの状況についても検討する必要があることである。もう一つは、通常との対抗として非常事態を捉えることを想定しているが、救貧的な要素は共通する可能性もあることである。これらの課題には非常事態時の社会事業に関する記述のある文献をさらに検討し考察を深めていくことで対応する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、日本社会福祉学会、社会事業史学会、社会政策学会、そのほか研究会などに年間10回程度の国内の学会に行くための経費を計上していたが、学会はすべてオンラインでの開催となり、参加費、旅費、宿泊費などを使用しなかったためである。今年度もオンライン開催の学会の大会が多く、大会への経費はかからないと思われる。
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