研究課題/領域番号 |
19K02225
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研究機関 | 武蔵野大学 |
研究代表者 |
野口 友紀子 武蔵野大学, 人間科学部, 教授 (20387418)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 慈善 / 慈善バザー / 社会福祉史 / 社会保障制度 |
研究実績の概要 |
2021度は、対抗する歴史を描くために、2つの点に着目した。ひとつは、女性の慈善活動である。明治初期の富裕層の女性による慈善活動は慈善バザーという形で寄付金を集めることからはじまった。鹿鳴館バザーと言われる慈善市では多額の資金が集まり、女性たちはそれを病院などに寄付していた。しかし、この活動は社会福祉史では評価されていない。社会福祉史で評価されるのは石井十次の岡山孤児院や石井亮一の滝野川学園などの主として施設での支援である。そのため、施設運営に対して資金集めという別の観点から、社会福祉史で女性たちの慈善活動を適切に評価するために、「慈善のはじまりと展開-婦人慈善会にみる慈善の意味」をテーマに、東京社会福祉史研究会第171回例会(令和4年2月26日)で報告を行った。この報告は、慈善を研究上の概念ではなく、慈善という用語が使用され実践された明治10年代後半の婦人慈善会の活動を検討し、明治初期の女性たちの活躍と慈善活動の展開についてまとめたものである。この研究会での質問を受けて、2022年度は原稿を作成する予定である。 もうひとつは、戦後の社会保障制度の成立と同時代の社会福祉実践者・研究者たちの意識との関係である。このテーマでは、社会保障制度審議会による社会保障制度上の社会福祉の位置づけを明らかにして、それに対する従来から社会福祉を実践してきた人びと、あるいは研究者たちがその社会福祉の位置づけをどのように受け止めたのかを研究するものである。2021年度は検討段階であるが、この検討を次年度には具体的に原稿、学会報告などで実績を出す予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究が概ね順調に進展している理由は、3つある。ひとつは、文献収集が順調であることである。明治期の比較的早い段階から発行されている『女学雑誌』を中心に、『女学新誌』も復刻版があり、手に入れることが簡単であった。 二つめは、社会福祉史では先行研究は少ない領域だが、他領域においては明治期の女性の活躍については研究が進んでいることから、他領域の研究実績を踏まえることができたことである。歴史社会学、ジェンダー史、文化史などの領域での明治初期の女性の活動の研究から多くの示唆を得ることができた。これらの研究から、女性の慈善活動について社会福祉史においても十分に評価が可能であると考えることができた。 三つめは、戦後の社会保障制度に関わる研究では、論文執筆の機会と学会シンポジウムでの登壇の機会を与えられたことである。検討中の研究を発表する機会を得られたことにより、それに向けて励むことができたことも進捗状況に影響していると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策は3点ある。1点目は、2021年度にすすめてきた明治期の女性の慈善活動の評価を行うことである。これは、明治期の慈善の評価が施設での支援に偏っていることに対抗して、資金集めを行う女性の慈善活動という従来の慈善とは違う慈善の形を明らかにすることになる。 2点目は戦後の社会保障制度にみる社会福祉の位置づけの研究について原稿にまとめることである。これは、社会保障制度審議会の理念としての社会福祉と、それに対抗する社会福祉実践者や研究者たちの社会福祉への認識を描くことになる。 3点目は、2020年度にやり残していた戦時期の「厚生事業」についての検討を行うことである。戦前から続いていた社会事業がどのように戦争とかかわりを持ち姿を変えていったのかを明らかにすることである。現在までの検討結果として、厚生事業は戦時期には社会事業の発展的形態と捉えるか、社会政策的形態と捉えるかに2分されること、し かしいずれも「勤労者」を対象に含めその目的は、生産力増強であったことがわかっている。このことから、戦時期の社会事業関係者たちが従来の社会事業を変形させ戦争という状況に社会事業を適応させて社会事業の存在意義を強めることを図ろうとしていたのではないかと考えている。 上記の3点を進めることにより、慈善活動に関する従来の施設での活動に対抗する資金集め活動、理念に対抗する実践者の意識、通常の社会事業に対抗する厚生事業を描くことができる。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた一番の理由は、学会の大会開催がオンラインになったことにより、交通費宿泊費が掛からなくなったためである。次いで、大会への参加がオンラインになったことにより、大会参加費が無料、あるいは非常に安い金額で設定されたことである。 使用計画としては、大会への参加である。2022年度の後半には大会の実施方法が対面に戻るところもあり、交通費宿泊費を使用することになる。
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