研究課題/領域番号 |
19K02236
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
阿部 誠 大分大学, 経済学部, 客員研究員 (80159441)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 就労支援 / 生活困窮者自立支援法 / 就労準備支援事業 / 就労困難者 / 雇用政策 |
研究実績の概要 |
本研究は、生活困窮者自立支援法の下での就労支援の目標や取り組み等の実態を明らかにし、日本の就労支援政策の特徴や政策課題を検討することを目的としている。今年度は研究のとりまとめを行い、「所得保障と切り離された就労支援政策」という論文をまとめたが、公刊は遅れている。 本論文は、日本では労働市場政策が重視され、就労困難者にたいする多面的な支援という政策は欠如していた。国の就労支援政策が本格化するのは生活困窮者自立支援法の成立によってであるが、支援対象は生活保護と一部で重なり合うにもかかわらず、所得保障のある生活保護とは別の仕組みとなり、並列するかたちで制度が構築されたと論じている。 そして就労準備支援事業は枠組みと予算だけが示され、アセスメントや就労支援プログラム等は実施主体である自治体に任されているが、自治体ごとのバラつきが大きい。具体的な取り組みでは、「生活面」や「コミュニケーション面の促進」「就労意欲喚起」は実施自治体が6~8割と高いが、他方でボランティア、職場見学、就労体験などは3~4割と低く、今後の課題となっている。また、応募書類作成等の支援や面接への同行などを実施している自治体が約5割を占め、労働市場での就職への志向の強さを示している。 その一方、生活保護制度でも「自立の助長」のための社会福祉の援助のなかで就労指導が行われることになっているが、ケースワーカーの配置が不十分ななかで支援は弱い。また、生活保護では多面的な目標より就労による自立の面が強い傾向がみられる。 こうした点から、生活困窮者自立支援制度の就労支援は、所得保障と切り離されている一方、最低生活保障である生活保護制度の下では、就労支援の多面性、柔軟性が弱いという日本の特徴がみえる。ただ、就労準備支援事業は生活困窮者自立支援法と生活保護の相互で利用でき、就労支援の両者の考え方は接近していることも指摘できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、2015年にはじまった生活困窮者自立支援法の下での就労準備支援事業を中心として、事業実績のデータや自治体から同事業を受託するなどして就労支援に取り組む民間団体への聞き取り調査をふまえ、日本の就労支援政策の実態について明らかにするとともに、その特徴と課題を検討することを目的としている。 本研究プロジェクトは、パンデミックの下で就労準備支援事業の実態について聞き取り調査を行うことが難しい状況が続いたが、2022年秋頃から厚生労働省の担当者や就労支援の取り組み団体への聞き取り調査を行い、実態把握に努めてきた。あわせて就労支援に関心をもつ研究者との研究交流などを通じて議論を深めてきた。 本年度は多面的な就労支援に取り組む沖縄県のグッジョブセンターや県の受託事業と独自の事業をあわせて幅広い取り組みを行っている沖縄県労働者福祉基金協会などへの聞き取り調査を行った。また、諸外国の就労支援政策について把握し、国際比較にもとづいて就労支援の日本の特徴について整理した。 こうした点とともに、本研究プロジェクトの最終年として研究のとりまとめを進め、日本の就労支援政策の特徴と問題点について「所得保障と切り離された就労支援政策」という論文にまとめた。これは研究代表者が編者となる『就労支援政策にみる福祉国家の変容』に掲載される予定であるが、その刊行が遅れており、2024年5月に刊行予定である。 本研究プロジェクトはまとめの段階にある。本研究の成果をまとめた論文の公表が遅れたこともあり、研究は1年延長することとなった。今後はこれまでの研究の成果を学界や社会にむけて公表することに力点をおく。当面、上記論文の刊行を進め、その論文をもとにした研究交流を通じて、議論をより深めることに努める。同時に、日本の就労支援の特徴と課題について、諸外国の就労支援の政策の検討を通じて、より明確にしてゆきたい。
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今後の研究の推進方策 |
本研究プロジェクトは、最後のまとめの段階にあり、今後はこれまでの研究の成果を学界や社会にむけて公表するとともに、論考をブラッシュアップすることに力点をおく。 まず、本研究プロジェクトをとりまとめた論文「所得保障と切り離された就労支援」およびそれを掲載した『就労支援政策にみる福祉国家の変容』(ミネルヴァ書房)の刊行に努める。そして、本書を共通の関心をもつ多くの研究者に読んでもらったうえで、本論文で不十分な点や修正が必要な点、さらに深めるべき論点などについて研究者と議論する。同時に、本論文で明らかにした日本の就労支援政策の特徴と課題について、諸外国の就労支援政策の検討を通じて、国際的な視点から明確にしてゆく。当面、日中韓3か国の就労支援政策について比較検討を行ったうえで、国際学会でその成果をまとめた報告を行いたいと考えている。 これらを通じて、これまでの研究成果をふまえた議論をすでに始まっている新たな研究プロジェクトにつなげてゆきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度までに未使用額が生じたのは、新型コロナウイルス感染症の下で就労準備支援事業に関する自治体への聞き取り調査が十分に行えなかったことにくわえて、オンライン開催となった学会や研究会も多く、使用を予定していた旅費の支出が少なかったためである。とくに国際学会への出席などの海外出張は行えなかったため、2022年度まで外国旅費は支出がなかった。こうした結果、全体として研究費の支出が抑制された。 2023年に入って社会全体として正常化が進み、学会や研究会なども再開された。そうしたなかで、2023年度にはようやく国際学会への参加も可能になり、外国旅費を支出したが、研究の遅れもあって、研究期間の全体を通じて旅費の支出が少なかった。 次年度は、期間延長した本研究プロジェクトの最終年であり、研究のとりまとめとそれを学界や社会にむけて公表し、さらに議論を深めることに努めることを計画しており、研究費は、主として研究成果の公表と本研究の成果についての研究者との研究交流などに支出する予定である。研究経費について、具体的にはこれまでの研究成果をまとめた書籍について研究者に読んでもらい、議論する機会をつくることに支出する予定である。また、国内外での学会や研究会などで成果を公表し、研究交流するための旅費や専門家の招聘にも支出したい。
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