研究課題/領域番号 |
19K02241
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研究機関 | 山口県立大学 |
研究代表者 |
坂本 俊彦 山口県立大学, 社会福祉学部, 教授 (40342315)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 高齢者在宅生活支援システム / 生活支援活動 / 住民互助 / 社会福祉協議会 / 民生児童委員 / 住民自治組織 / 自治会 / 公私論 |
研究実績の概要 |
「独居高齢世帯」「夫婦のみ高齢世帯」が増加するなかで、要援護高齢者の在宅生活を維持するためには、「住民互助」の強化が不可欠である。本研究の目的は、地方中小自治体の地域特性を踏まえ、「生活支援活動」参加住民の量的拡大を可能とする「高齢者在宅生活支援システム」(課題発見システム/課題解決システム)の構築方法を定式化することで、「住民互助」の強化に貢献することにある。 2021年度は、コロナウィルス感染拡大予防の観点から、当初予定していた質問紙調査を次年度に延期することとし、調査項目の検討ならびにその分析視点の深化に資すると想定される「公私」論に関する先行研究の整理を行った。 本研究において「公私論」に着目する意義は、それが、本研究の価値前提と連なるインフォーマルケア(IFC)の意義とそのあり方を問うものだからである。戦後の社会福祉は、「措置制度」に象徴されるように「公私分離原則」に基づき国・地方自治体の統制下に置かれ、サービス供給の量的拡大とその安定化が図られたが、その発展は現行の政治・行政システムの枠内に制約され、理想を追及する先駆的なサービス供給が抑制されるという負の側面を有する。例えば、「生活モデル」に基づくIFCは、利用者とその生活環境の多様性を尊重する理想的なケアのあり方としてそのシステム構築が期待されるが、高コストであるがために、平等処遇と財政規律の遵守を原則とする行政施策と鋭く対立、その実現が阻まれてきた。しかし皮肉なことに、国の財政事情から地域包括ケアシステム構築を迫られた地方自治体は、IFCの担い手を調達するため、「生活モデル」に依拠し住民に対する意識啓発に取り組まざるを得ないという自己矛盾状況に陥っている。このように、「公私論」は、地方中小自治体における「高齢者在宅生活支援システム」の構築理念を検討する際に、有益な分析視点を提供するものと期待されるのである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2021年度は、「公私論」に注目し、次年度における質問紙調査の検討ならびにその分析視点の深化に資する先行研究の整理を行った。その結果、次のように整理することで研究の質を高めたが、研究期間を1年延長したため「遅れている」と自己評価する。 「公私論」とは、最広義には「生活課題の解決を目的とする主体間の役割分担を巡る言説」として定義できるもので、社会福祉課題のみならず生活課題全般に及ぶものである。一般的には、産業化による伝統的村落共同体の解体と都市化社会の出現により、生活課題の解決主体が「個人・家族」と「国家・行政」とに両極化し、結果として「地域社会」の共同性(互助力)は衰退したと説明される。 わが国においては、1960年代の高度経済成長による豊富な財源により可能となった行政サービス拡大方針が、国家・行政による「公共性」の一元化を招き、国民の行政依存と地域社会の「互助力」の衰退をもたらした。しかし、1990年代以降の経済成長鈍化による財政逼迫に直面した国家・行政は方針転換を図り、「新しい公共」「官民協働」理念のもとに、「公共性」の多元化、すなわち国民の「主体性」や地域社会の「互助力」を前提とする政策展開を行うようになった。 「地域包括ケアシステム」構築を掲げる近年の高齢者福祉政策もまたこの政策展開のひとつとして捉えられるが、これが有効に機能するためには、国民の行政依存からの脱却や地域社会における「互助力」の再生が不可欠である。具体的には、住民が、個別の生活課題を共有し、これを互助により解決を図るべきものと認識し、その認識に基づく実践活動に踏み出すためのしくみを地域社会に整備していく必要がある。本研究は、「高齢者在宅生活支援システム」構築をテーマとし、このしくみをだれがどのように整備するかを検討するものであり、かかる意味で「公私論」の展開を図るものと位置づけることができるのである。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度の研究から、調査対象地域では、「高齢者在宅生活支援システム」の構築とその継続的運営により、地域住民による生活支援活動が促進されその互助力が強化されていることが明らかになった。また、2020年度の研究から、地域自治会の活動関与のあり方や地域社会における社会関係資本の様態が、システム構築とその継続的運営に影響を与えることについて仮説的に整理できた。さらに、2021年度の研究から、システム構築における価値理念的矛盾が生じており、これを調整する仕組みが必要であることについて仮説的に整理できた。 以上の研究を踏まえ、2022年度においては、活動主体である地域住民の「参加意欲」の維持ならびに「参加条件」の充足に焦点をあて、システム構築とその継続的運営の方法について整理したい。具体的な調査項目としては、2019年度の研究により析出された2つのモデル別に次の内容を想定している。 「市町村社協-民生児童委員-住民ボランティア」モデル地域においては、行政や社協等から委嘱を受けた「制度的ボランティア」(民生児童委員、福祉員等)が活動の中核を担っている。従って、このような委嘱制度ならびにその活動内容に対する認知と評価、活動依頼に対する受諾意欲と受諾条件、「生活モデル」理念との整合性等が、具体的な調査項目になるものと想定される。 「地域包括型住民自治組織-自治会長-住民ボランティア」モデル地域においては、「自治会長」ならびに対象者の「近隣住民」が活動の中核を担っている。従って、自治会活動のなかに高齢者生活支援活動が位置づけられていることに対する認知と評価、活動依頼に対する受諾意欲と受諾条件、「生活モデル」理念との整合性等が、具体的な調査項目になるものと想定される。 なお、可能な範囲で本研究代表者が2014年~2015年に実施した複数地域を対象とする調査結果と比較し知見の一般化を図りたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、コロナウィルス感染拡大予防の観点から、研究期間を1年延長し、当初予定していた質問紙調査を次年度に変更したためである。次年度においては、感染拡大状況などを勘案しながら、可能な限り当初予定していた質問紙調査の実施を通して、使用していきたい。
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