研究課題/領域番号 |
19K02251
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
飯村 史恵 立教大学, コミュニティ福祉学部, 准教授 (10516454)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 人権モデル / 関係性 / 意思決定支援 / 転用問題 / 権限拡張 |
研究実績の概要 |
2020年度は当初実証研究に本格的に取り組む予定であったが、新型コロナウイルスの影響により、計画の大幅交代を余儀なくされた。しかし継続している社会保障法、憲法、知的障害者支援を専攻する3名の研究者に加え、地方自治体の公共政策を専門とする研究者にも参加を仰ぎ、Zoomを活用して定例研究会を3回開催することができた。 初回は、成年後見制度の転用問題の一つとして身元保証問題を取り上げた。病院や福祉施設利用に伴う身元保証人は、社会問題と認識されているが、抜本的対策は講じられていない。既存調査では成年後見人が就任できないはずの身元保証機能が事実上容認され、担い手不在との理由から役割が期待されている現状が明らかになった。追加して、現場でのヒアリング調査も実施した。2回目は、身元保証問題に関する法的助言の後、現行の福祉サービスにおける「契約」の問題点が議論された。「制度的契約」の援用による福祉サービスの「契約」を再構想する意義、判断能力が不十分な人々の意思と契約、事実行為である個別支援計画策定の理論立て、今後精緻化が求められる個人の生存に関わる他者の位置づけに関して意見交換を行った。3回目は、「意思決定支援ガイドライン」を巡る検討とアメリカ・テキサス州におけるSDM、オーストラリアにおけるノミニー制度の動向等が報告され、日本における「意思決定支援」の課題を討議した。 ヒアリング調査は、先の身元保証問題に関連した特別養護老人ホームにおける調査の他、知的障害を有する子どもをもつ親や社会福祉協議会職員、さらに無料低額宿泊所における金銭管理に関し研究者への調査等を実施した。これらにより、成年後見制度が有する機能が拡張している現状と、根底にある資源不足と理論の矛盾が、明らかになった。今後「意思決定支援」と絡め、本人を取り巻く人々との関係性の観点から制度を再構築する課題を抽出することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
世界に甚大な影響を及ぼしているCOVID-19は未だ収束が見込めず、当該研究の進捗にも相当の遅延状況をもたらしたことは否めない。2020年度に実施予定であったアンケート調査については、結果的に延期を余儀なくされ、2019年度に実施を予定していた海外ヒアリング調査はもとより、国内におけるヒアリング調査についても、再延期したり、調査対象を変更せざるを得ない状況に陥ってしまっている。 しかしその一方で、今年度、僅かながら実施したヒアリング調査において、福祉現場における身元保証問題及び社会福祉協議会における成年後見制度の実態等につき、重要な知見を得ることができた。さらに定例研究会や試みとして行ったZoomを利用したヒアリング調査においても、貴重な知見を得ることができ、今後は対面以外の方法論を使用しつつ、研究成果が挙げられる工夫を考慮する必要がある。 このような点を考慮し、合理的な予算執行を図りつつ、最終年度にあたる2021年の研究活動を充実したものとしていく所存である。
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今後の研究の推進方策 |
1.専門職アンケート調査再構築:本件においては、2020年度実施すべき案件であったところ、COVID-19の影響により、実施できなかった。しかし、調査設計や集計・分析にスキルを有する関係者と内々に調査実施の打ち合わせも行い、また、先行する類似調査として、幾つかの関係機関と調査しながら、調査票等を入手することができた。2021年度は、遅くとも9月までには実施ができるよう調査項目を精査すると共に、調査協力を依頼している2つの専門職団体等に具体的な調査予定の計画を再度立案し、調整を図り、実施できるよう働きかける。 2.可能な範囲でのヒアリング調査再構築:昨年は試行錯誤の中で、可能な範囲でのヒアリング調査を実施したので、貴重な知見を得ることはできたが、当初計画していた成年後見制度に対する団体の意向別のヒアリング調査は、実現の見通しが立っていない。今年度も対面による調査は、実施が難しい可能性も高く、調査対象を再度絞り込み、可能な範囲での調査実施を検討することとする。 3.定例研究会における学際研究推進と成果のまとめ:厚生労働省による判断能力が不十分な人々の意思決定支援に関わる「ガイドライン」が複数出されてきた経緯を踏まえ、また、障害者権利条約の政府報告ヒアリングなど、国内外の動向を見定めた上で、本研究のテーマに沿う内容にポイントを絞った定例研究会を継続的に実施する。 これまでの研究を通じて「関係性」に焦点を当てる当該研究には、心理学や法哲学といった分野が従来蓄積してきた知見から得る事項が大きいのではないか、という新たな仮説が生成されている。これらを全て網羅的に知悉することは難しいが、適宜専門家を定例研究会等に招くことにより、研究の精度を高めていきたい。年度末には、今期の成果を盛り込んだ報告書を発行し、関係機関に送付する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:COVID-19の影響が当初の予測より長期間に及び、実施を予定していたアンケート調査並びに海外ヒアリングを含むヒアリング調査は、殆ど実施が不可能となり、再延期するに至った。そのため、過年度からの繰越を加えた全体の執行率は3割を割り込み、旅費は0執行となり、2020年の繰越残金は120万円を超える状況になった。とは言え、2021年度は予定していた研究の最終年度に該当するため、下記の使用計画に基づき、効果的な研究費用執行に取り組む予定である。 使用計画:ヒアリング調査の対象を精査し、2020年度予定していたアンケート調査を着実に実施し、さらに研究成果をまとめるための費用等の執行を予定している。下記には、主に繰越残金の充当となる当初の予定を組みかえた調査に関する使用予定費目を記す。 1.アンケート調査:調査票作成及び集計・分析の委託費、調査協力者謝金、関係書類郵送費、印刷費及び先行研究収集のための文献購入費等 2.ヒアリング調査:ヒアリング先を精査した上で調査協力者謝金、テープ起こし委託費等
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