研究課題/領域番号 |
19K02258
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
武田 丈 関西学院大学, 人間福祉学部, 教授 (30330393)
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研究分担者 |
澤田 有希子 関西学院大学, 人間福祉学部, 准教授 (60425098)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | エンパワメント / CBPR / 参加型アクションリサーチ / LGBTQ+ / SOGI / ライフストーリー / アライ / 研修開発 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、LGBTQ+の若者コミュニティに焦点をあて、コミュニティと協働でCBPR(協働調査)を実践することで、CBPRが多様性尊重、特にセクシュアリティの多様性尊重のためのソーシャルワーク実践として有効であることを確立することである。LGBTQ+の若者コミュニティと協働して、こうした若者たちのニーズ調査、ライフストーリー調査、教員への知識調査の成果を元に教員に対する研修を開発し、それを教員に対して実施することによってその成果を確認するとともに、LGBTQ+の若者のロールモデルとなるライフストーリー集を作成することによる後輩たちへのエンパワメント効果を確認していく。 2019年度は、LGBTQ+の若者を加えたコミュニティ諮問委員会を5回開催し、次のような活動を行った。まず「教員への知識調査」に関しては、2013 年に実施された全国の「教員5,979人のLGBT 意識調査」(日高, 2015)の結果と比較できるように調査票を作成し、私立高校の教師40名を対象に、今後の研修開発のため、また研修による効果測定のためのベースラインデータを収集した。 研修開発に関しては、ハワイ大学のキャンパス内の「アライ(Ally(=同盟、味方という意味)は、LGBTを積極的に支援する人)」養成研修プログラムを参考に、日本の大学の状況に応じた研修の内容についての検討を始めた。 一方、ライフストーリー調査では6名の多様なSOGI(Sexual Orientation and Gender Identity=性的指向と性自認)の若者に対するインタビューを実施し、それぞれの大学生時代の体験、就職活動、現在の職場での体験といった、主に大学入学以降のそれぞれのライフステージでの体験に関するデータを収集し、現在分析を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高校教師に対する知識調査では、以下のように事柄が明らかになった。「同性愛と思われる男子生徒がいた」と回答した高校教師は57.5%、「同性愛と思われる女子生徒がいた」と回答したのが30.0%と、いずれも全国調査(男子生徒10.4%、女子生徒10.2%)よりも高い割合だった。これは全国調査が7年近く前に実施されたことに加えて、高校生だけでなく中学校以下の教師も対象となっていることが原因だと考えられる。また、多くの教師が必要性を感じているにも関わらず、実際に授業に取り入れた経験があるのはわずか15%という結果であり、これは全国調査の結果(14%)とほぼ同じであった。一方、「正直な気持ちとして、同性愛のことは理解できない気がする」という設問に対して、「理解できない」と回答した教師が全国調査では26%、今回の調査でも20%にのぼった。一方、「理解できる」と回答した教師は全国調査では29%であったが、今回の調査では55%にのぼり、受容度が高いことがわかった。「正直な気持ちとして、トランスジェンダーのことは理解できない気がする」という設問に関しては、全国調査とほぼ同じ割合で、「理解できない」と回答した教師が15%、「理解できる」と回答した教諭が57%であった。このように全国調査から7年が経過して、教師の間に多少の知識の向上は確認できるものの、まだまだ研修の必要性が高いことが確認できた。 ライフストーリー調査の方は、まだ分析段階であるが、多くの若者が大学在籍中にカミングアウトできていなかったこと、それぞれのサバイバルの方法を駆使して生活していたこと、就職活動に苦労したといった共通の要因が確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
ライフストーリー調査に関しては、最新のキャンパスでのサバイバルの方法を明らかにするために現役大学生に対するインタビュー調査を行う予定である。教職員および学生に対するアライ養成のための研修開発に関しても、LGBTQ+の現役大学生を対象にフォーカスグループインタビューを開催して研修内容の参考となる情報を収集する予定である。ただし、新型コロナウイルスによる全国的な外出自粛要請が出されている2020年4月時点では大学のキャンパスが封鎖されており、いつ対面授業が再開されるかわからない状況であり、計画した通りの方法で進めることが困難なことが予想されるため、オンライン会議のツールを用いたコミュニティ諮問委員会の開催やフォーカスグループインタビューの実施を検討する必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
繰越金は物品費などの端数(209円)であり、2020年度の物品費として使用する予定である。
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