研究課題/領域番号 |
19K02259
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研究機関 | 西九州大学 |
研究代表者 |
坂田 周一 西九州大学, 健康福祉学部, 教授 (20133473)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 社会支出 / 純社会支出 / 社会政策的租税支出 / 社会目的租税優遇措置 / 財政福祉 |
研究実績の概要 |
本年度は、OECD諸国の社会支出に含まれる社会政策的租税支出の分析を行った。この概念は、R.ティトマスが提起した「財政福祉」に相当するものであり、OECDでは「社会目的租税優遇措置」と表記している。次の2つの種類の租税支出がこの概念に相当する。すなわち、(A)現金給付と同等の政策機能を果たす税の減免、(B)民間による社会保護を奨励するための税の減免である。前者には、被扶養児童向けのタックスクレジット制度等が含まれる。後者の租税支出には、私的支出を促進する狙いで行われる非政府組織(NGO)や非営利組織(NPO)のための減税、民間医療保険の保険料支払いに対する税の優遇、私的年金への税の優遇が含まれる。 次に、総社会支出から直接税・社会保険料等の公租公課を控除した純社会支出を算出し、その中に含まれる社会政策目的租税支出の割合を求めて国別比較を行った。北欧諸国では租税支出が行われておらず、直接支出を基本とする福祉政策が行われていることが明らかになる一方、北欧諸国を除く他の多くの国において社会目的租税優遇措置が行われていることが明らかになった。フランス、ドイツ、アメリカ、オランダ、ポルトガル、カナダ、アイルランド及び韓国ではこの種の租税支出の比重がとりわけ高く、純社会支出合計の3~7%程度を占めている。特徴的なのは、アメリカである。この国の公的直接支出のみの数値は18.1%と23か国中の低位に位置しているが、租税支出分と私的支出分を加えると合計が28.9%へと上昇し、勤労所得給付付き税額控除(EITC)等の租税支出がアメリカの社会政策の中で一定の位置を占めていることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画では、本年度の研究の中心主題である「社会政策的租税支出」の最新のデータを収集するため、パリのOECD本部を訪問する計画であった。しかし、新型コロナウイルス感染症の世界的蔓延、緊急事態宣言による渡航禁止があり、国内においてテレワークとして収集できるデータに限定した分析を行った。このため、当初計画から進行が「やや遅れる」こととなった。
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今後の研究の推進方策 |
社会支出に占める直接支出と間接支出の長期時系列における変化を明らかにするため、関連する海外機関において資料を収集し分析を行う。その目的は、本研究の仮説である、「直接支出としての社会支出のGDP比が高位の国では財政支出の制約が高まり、将来の社会政策の発展においては、直接支出に代わって間接支出である租税支出に基づく施策の役割の比重が高まらざるを得ず、その具体的な制度施策の方法に政策の焦点が当てられてくる」との命題を実証するために不可欠であるためである。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの世界的蔓延、緊急事態宣言による渡航禁止、外出自粛があったため、資料収集、情報収集目的で予定していた旅費の支出ができなかったため、その部分を次年度使用額とした。
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