研究課題/領域番号 |
19K02259
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研究機関 | 西九州大学 |
研究代表者 |
坂田 周一 西九州大学, 健康福祉学部, 教授 (20133473)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 福祉国家の危機 / 経済成長 / 社会支出 |
研究実績の概要 |
OECDが1980年10月にパリの本部において開催した「1980年代における社会政策に関する会議」の記録は「The Welfare State in Crisis(福祉国家の危機)」(OECD, 1981)と題する報告書として刊行されている。当時の事務総長エミール・ヴァン・レネップが「開会の辞」で「1970年代に入ると、経済は停滞し、これが完全雇用と福祉国家という大きな目標の明らかな衝突をもたらした」と述べたように、70年代に2度の石油危機を経験し停滞する経済状況下において福祉国家政策の基本的方向性の見直しを促す意図を込めて開催されたものである。しかし、この会議が開かれた時点では国際比較可能な社会政策関連支出統計データが整備されておらず見直しの方向性について実証的な比較分析がなされていたわけではなかった。このため、本研究では当時の社会支出データの検証を行うこととした。 当時のOECD加盟20カ国について1960年から75年までを期間Aとし75年から81年までを期間Bとすると実質GDP年平均成長率のOECD平均は期間A4.6%から期間B2.6%へと低下。一方、実質社会支出の年平均成長率も期間A8.4%から期間B4.8%へと低下していた。しかし、国別に見るとアメリカ合衆国のGDP成長率は期間A3.4%、期間B3.2%へ低下幅が小さく、ニュージーランドのGDP成長率は期間A4.0%から期間B0.4%へと落ち込みが大きく変化の様相は多様である。そこで、各国におけるGDP成長率の低下幅と社会支出成長率の低下幅の関係を相関分析によって検討したところR=-0.332となり負の相関関係が示された。すなわち、経済成長率の低下幅が大きかった国ほど実質社会支出の低下幅は小さかったという関係が示され、経済成長率の低下がそのまま社会支出の低下に結び付いてはいなかったことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
OECD諸国における社会支出の長期的変動の国際比較を目的とし、OECD本部他の海外の政府機関並びに研究機関における研究情報の交換、分析を主要な研究方法とする研究であるが、研究を開始した2019年末ごろから顕著となった新型コロナウイルス感染症の世界的蔓延が2020年度、2021年度においても収束しなかったことにより、研究方法の中核をなす海外における研究情報の交換、分析をなすことができずかなりの遅れを生じた。
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今後の研究の推進方策 |
社会支出に占める直接支出と間接支出の長期時系列における変化を明らかにするため、関連する海外機関において資料を収集し分析を行う。その目的は、本研究の仮説である、「直接支出としての社会支出のGDP比が高位の国では財政支出の制約が高まり、将来の社会政策の発展においては、直接支出に代わって間接支出である租税支出に基づく施策の役割の比重が高まらざるを得ず、その具体的な制度施策の方法に政策の焦点が当てられてくる」との命題を実証するために不可欠であるためである。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの世界的蔓延、緊急事態宣言による渡航禁止、外出自粛があったため、資料収集、情報収集目的で予定していた旅費の支出ができなかったため、その部分を次年度使用額とした。
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