本研究は、日本における外国人材の受入れ拡大に対応し、外国人が円滑に共生できる社会を実現するため、ドイツでの経験や議論などに基づき、これまで国民を対象とする国内制度として発展してきた社会保障制度を共生社会に適合したものに転換するための理論的な基礎と具体的な対応策を提示しようとするものである。 研究の最終年度である令和5年度においては、令和4年度までの研究成果を基に、外国人の社会保障について、日独比較の視点から包括的な検討を行い、研究成果の取りまとめを行った。そのために、令和5年4月には北海道大学法学研究科の社会保障研究会において、「社会保障における外国人の平等取扱い」と題する研究発表を行い、ドイツにおける外国人の取扱いが滞在資格などに応じた階層的な構造となっていること、ドイツにおける外国人の平等取扱いにEUの法が重要な影響を及ぼしていることなどを報告し、専門家との議論を行った。 また、研究期間全体を通じて実施した研究により次のことを明らかにした。ドイツにおける社会保障の適用に関しては、基本的に属地主義の考え方が採用されている。しかし、税を財源とする社会給付の場合には、属地主義に重要な修正が加えられており、滞在資格などが給付受給に影響を及ぼしている。一方、社会保険の場合には、その適用及び給付に関して外国人とドイツ人との間に差はみられない。ただし、社会保険の場合にも外国での給付受給などを制限する仕組みは設けられている。また、こうした仕組みが他の加盟国への移動を抑制することにならないよう、EUでは社会保障制度に関する統一的な調整の枠組みが設けられている。これらをもとに、日本についても、外国人労働者に対する生活保護などの給付の在り方を検討するとともに、外国人による不適切な給付受給を防止するための措置と併せて、労働者の国際移動を促進する観点からの措置を講じていく必要がある。
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