2020年春からのCOVID-19感染拡大、2022年2月24日からのロシアによるウクライナへの特別軍事作成の開始などにより、本研究課題は文献研究にとどまったままであり、当初計画していた実地調査をまったく実施できないまま、本研究課題の期間満了を迎えることになった。2021年度の実施状況報告書で記したように、障害者と非障害者との社会的結束の実践的課題、制度的課題、具体的方策を探求してきたが、現場での参与観察、ヒアリング調査を実施できなかったため、本研究課題は理論的枠組みの検討のみで終了を迎えることになった。 ロシア・ウクライナ戦争終結後、現地での実地調査を再開したいと考えているが、単なる障害者問題研究と位置づけは大きく変更せざるを得なくなると考える。 つまり、今回の戦争によって障害者が新たに生み出されおり(「戦争障害者」という研究視点が加わった)、それに関する知見を加えて、研究課題を再構築する必要がある。 「戦争障害者」とは、軍務中の傷病によって心身の不全を生じた軍所属者のことであり、日本では「傷痍軍人」と呼ばれてきた。私の研究には「戦争障害者」という視点は設定しておらず、先天的な知的障害者をターゲットにしてきたわけだが、後天的障害の最大要因である事故、疾病、戦争といった観点から障害者範疇を再整理し、ロシアのインクルーシブ社会構築への動きにどのような変化が生じているのか、財政制度的にも、社会システム(障害者の施設、退役軍人組織における戦争障害者の包摂問題)なども検討していかねばならないだろう。 いずれにしても、ロシア社会が新たに直面している「戦争と障害者」という問題も分析理論枠組みに加えて、包括的な研究体系に組み替えていかねばならないと考える。
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